「大阪の宿」水上瀧太郎

水上瀧太郎さん作品紹介

明治二十年十二月六日、東京に生まれた水上瀧太郎は、大正六年十月に明治生命の大阪支店副長として赴任し、大正八年十月、東京本社に復帰した。その二年間に大阪で見聞きしたことを素材に、大阪と大阪人気質を辛辣に描いた長篇小説が「大阪の宿」である。

大阪に来て、まだ半年にしかならない主人公の三田は、前の下宿時代からの深い馴染である天神橋の蛸安で、関東煮の蛸の足を噛りながら、こっぷ酒をひっかける。そこで土佐堀の酔月という下宿屋を紹介してもらう。

三田は三十を越してまだ独身で、会社に勤めながら、樟喬太郎の筆名で小説を書いている。三田は酒好きで、友人の田原と北の新地で酒を飲む。蟒というあだ名のある芸者のお葉とは気が合い、酒を飲みくらべをして、コップの酒を頭から浴びせられた。三田は通勤途中に出会う美しい女性に恋心を寄せたりするが、小説「贅六」を完成させる。

酔月には、勝気で男勝りのおかみさん、おつぎ、おりか、の4名の女性たちが働いている。同宿人の大貫や野呂など次々と女性と関係をもつ漁色家や、身投げから助けた娘に肉体関係を迫るおっさん、板前に騙されて下宿人の金を盗むおりか、仕立物をしながら売春をする近所の娘おみつなど、酔月を中心に物語りが展開 する。

支店長のともをした接待の席で、芸者のお葉が支店長に酒を浴びせかけ、それがもとで、三田は東京本店に復帰を命ぜられた。「すす汚なく曇った空の下に、無 秩序に無反省に無道徳に活動し発展しつつある大阪」における様々な男女の人間模様を描く。土佐堀川の北岸に「大阪の宿」の文学碑が建立されている。

初出 「女性」大正十四年十月号~大正十五年六月号。
初版 『大阪の宿』大正十五年九月十五日発行、友善堂。
全集『水上瀧太郎全集第四巻』大正十五年十一月十日発行、岩波書店。
小説の舞台と時代 大阪・土佐堀。大正七年・八年ごろ。

水上瀧太郎(みなかみ・たきたろう)・作家

1887(明治20年)東京に生まれる。明治生命専務。昭和初頭までの十年間「三田文学」主宰。代表作に『大阪』『大阪の宿』、エッセイ集『貝殻追放』等がある。