「新雪」藤澤桓夫

藤澤桓夫は明治三十七年七月、大阪市東区備後町に生まれた。高校時代は同人誌「辻馬車」で活躍し、上京後は新感覚派の作家として文壇に進出した。大阪を描いた小説を執筆するようになるのは、病を得て帰阪した昭和十年頃からである。

藤澤桓夫さん作品紹介

「新雪」は『朝日新聞』に昭和十六年十二月から翌十七年四月まで連載された。連載開始日が太平洋戦争開戦直前であったにもかかわらず、作品からは戦争の暗い影は伝わってこない。物語はモンゴル語の権威を父に持つ保子、国民学校の教師良太、眼科医の千代、保子の父の弟子、信夫の四人の恋愛模様を軸に展開する。千代は子供のようなところのある良太を頼りなく感じていたが、やがて何事にも情熱を注ぐ姿に心を惹かれていく。一方、保子も良太に好意を寄せていた が、信夫の思いの深さを知り彼を受け入れる。そして、良太と千代、信夫と保子は結ばれ、互いの新しい旅立ちをもって物語りは幕を閉じる。良太が屋台の暖簾 に首を突っ込んで食べていたのが「串カツ」である。屋台の串カツなんて一体何の肉ですのと、眉をひそめる千代に、良太は、あっけらかんと案外おいしかったと答える。ここに、良太の豪放な性格と共に、暗い世相の中でも逞しく生きている関西人のバイタリティを見ることができる。その他、食べ物に関しては、サン ドウィツチを食べ散らかしている大学生を良太が嗜める場面があるが、当時の状況を考えるとあえてサンドウィツチという小道具を使っていることは興味深い。

なお、この作品は昭和十七年、五所平之助監督、水島道太郎、月丘夢路主演、大映で映画化された。灰田勝彦が歌う主題歌も流行した。また、『新雪』の登場人物に影響され、司馬遼太郎が大学でモンゴル語を専攻に選んだというエピソードが残されている。

発表『朝日新聞』昭和16年12月~昭和17年4月
作品設定の年代 昭和16・17年

藤澤桓夫(ふじさわ・たけお)・作家

1904(明治37)年、大阪市東区備後町に生まれる。代々漢学者の家がらで、祖父は南朝正統論有名な藤澤南岳である。1925(大正14)年、神崎清らと同人雑誌「辻馬車」を創刊。短篇小説「首」によって、川端康成らに認められた。1989(平成元)年6月没。

主な作品

生活の旗
辻馬車時代
大阪の話