「細雪」谷崎潤一郎

谷崎潤一郎さん作品紹介

戦中、戦後に描き継がれた、谷崎文学最大の長編小説。大阪船場の旧家、蒔岡家の四人姉妹、鶴子(長女)、幸子(次女)、雪子(三女)、妙子(四女)の物語。
物語は、雪子と妙子が本家鶴子の夫と折合いが悪く、そのため、ほとんど芦屋の貞之助、幸子夫婦宅に身を寄せているところから始まる。雪子は姉妹の中で一番の 美人ではあるが、無口で地味なところがあり、三十歳を過ぎて未だに独身である。大家であった昔の格式にとらわれていることも、縁談がまとまらない原因で あった。これとは対照的に、妙子は自由奔放な性格で、人形制作に才能を発揮する。若い時、船場の道楽息子奥畑とスキャンダルを起こしたことが、姉たちの負担になっていた。雪子は見合いを繰り返すが、どれも不首尾に終わる。妙子は奥畑と付き合いながらも、洪水の時の命の恩人でカメラマンの板倉と恋に落ちる。しかし板倉は急死、バーテンの三好と同棲する。だが、妙子は死産してしまう。雪子はついに華族の末裔御牧との縁談がまとまる。内心不満があったが、結婚式 に上京するのであった。

作品中、昭和十年代の関西の上流社会の生活が、京都の花見や岐阜の蛍狩などをもまじえ、四季折々の風情をもって描かれる。

「食」に関しても、幸子が夫の貞之助に魚で何が一番好きかと聞かれ、「鯛」と答える有名な場面がある。貞之助は月並過ぎて笑ってしまうが、幸子は、形や味から いっても鯛こそは最も日本的な魚であると言う。そう言う心の中には、自分の生まれた上方こそは、日本で鯛の最も美味な地方、したがって、日本の中で最も日 本的な地方であるという誇りが潜んでいるのであった。しかも幸子は、鯛は鯛でも、「明石鯛」でなければ旨がらない。その旬は桜の咲く季節、この時期のもの は体色も鮮やかで、味もよく、特に桜鯛と呼ばれる。同様に幸子は、花では何が一番好きかと問われれば、躊躇なく桜と答えるのであった。

初版『細雪上巻』昭和十九年七月十五日発行
私家版。『細雪中巻』昭和二十二年二月二十五日発行、中央公論社。
『細雪下巻』昭和二十三年十二月十日発行、中央公論社。
作品設定の年代 昭和十一年十一月から昭和十六年四月まで。

谷崎潤一郎(たにざき・じゅんいちろう)・作家

1886(明治19)年、東京に生れる。永井荷風に認められ文壇での地位を確立。王朝絵巻のごとく豪華絢爛な美を描き続け、関西に居を移してからは日本美 を追求し続けた。松子夫人と再婚後は、関西の女性が使う関西弁を駆使した名作をうみだし、雅やかな上方文化を描いた。1965(昭和40)年7月没。

主な作品

刺青
痴人の愛
春琴抄
猫と庄造と二人のおんな
卍(まんじ)
少将滋幹の母