「めし」林芙美子
林芙美子さん作品紹介
「めし」は、林芙美子が死去したために、未完に終ったが、彼女の代表作の一つである。岡本初之輔は三十六歳の会社員、妻の三千代は二十八歳である。親の反対を押して結婚して五年になる。大阪に移り住んで三年である。子供が生まれないこともあって、平凡な結婚生活に、夫婦も疲れ、なにか物足らなく思っている。林芙美子の「めし」は、結婚生活に一種の倦怠に邁遇して、迷路に踏込んでいる三千代の苦 闘を描く。
東京から初之輔の姪里子が家出して転がり込んできた。「めし」は、初之輔と里子が遊覧バスに乗って、大阪の町を見物するところから始まる。お初天神は一 名、露天神ともいい、いまは食物屋横丁になっているというバスガイドの説明とともに、「筆太な、めしと書いてある大堤燈、うどん、すし、そんな看板が、ちらっと見えた」と大阪の風景が順次に描かれていく。初之輔と里子の二人は、昼食に、歌舞伎座の食物屋が軒並みに並んでいる店にはいって、「ビールの冷たい 奴に、まむし二つ」を注文する。「まむしって、なあに?」里子は、定価表に「まむし百円」と書いてあるのを見上げた。「鰻めしのことだよ」「へえ、鰻のことを、まむしって云うの?」と里子はいう。
「めし」には、このほかに、三千代と里子の家での食事で「塩昆布が好きとみえて、御飯の上に、塩昆布を並べて、茶をかけている」場面や、宗右衛門町の料亭 で聞かれた三千代の同窓会で「タケノコと、若芽の甘煮」「春菊のくるみあえ。鯛のさしみ。木の芽の浮いた、鶏団子のすまし汁」といった「料理屋の料理」など、大阪の食べ物が描かれている。
「めし」は、昭和二十六年十一月、成瀬巳喜男監督、原節子・上原謙主演で映画化された。
発表:『朝日新聞』昭和26年4月1日~7月6日第97回連載
作品設定の年代:昭和26年
林芙美子(はやし・ふみこ)・作家
1903(明治36)年、山口県下関に生れる。1930年に出版された『放浪記』がベストセラーとなり、以後女流作家の第一線で活躍した。男のもとを転々とする母親と暮らし決して恵まれていたとはいえない前半生から、生涯哀れな女を力強く描き続けたのだった。1951(昭和26)年6月、『めし』連載中に急逝。絶筆となった。
主な作品
放浪記
稲妻
浮雲
めし