『暖簾』
関西の"味"を考えるとき、外せないのが昆布だ。薄く、あっさりしているのにしっかりと旨みは出ている、そんな関西風のおだしこそ、昆布のおかげ。あまり 詳しくはないのだが、確か大阪は、江戸時代から日本全国の昆布の集積地だったはずで、その関係で昆布問屋さんが今も多いと思う。また、薄~く削って作る「とろろ昆布」には、それに適した刃物と技術が必要で、刃物の町である堺に、その技術を持つ職人たちが集められ大いに賑わったという話も聞いたことがある。昆布のことを『おこぶ』や『おこぶさん』なんて呼ぶことからも、その密な関係が知れようというものだ。つまり、大阪と昆布は切っても切れない味な関係にあるのだ。
映画にも、大阪の昆布商店を題材にしたいい作品がある。名匠、川島雄三監督の『暖簾』だ。淡路島から出てきた少年が、大阪の昆布問屋の主人にひろわれ、丁稚として身を粉にして働いて、やがて暖簾分け。本家をもしのぐ商家となるが、戦争で無一文に。ところが、そうなってから、それまで親不孝者に思われていた息子が父譲りの実力を発揮して、立派に家を立て直す。そんな親子二代の商売人のお話だ。原作は山崎豊子の同名小説。芸達者な森繁久彌が親子二人を二役でみごとに演じてみせるほか、本家の主人役の中村雁治郎、女主人の浪花千栄子、女房の山田五十鈴、嫁になる若い娘に中村メイコと皆な適役好演で見応えがある。山田五十鈴との新婚初夜に、初めての夫婦喧嘩をした後、仲良く屋台のうどんをすすり、そこで大阪中の屋台に店の昆布を使ってもらうことを思いつくなんていう微笑ましいシーンもある。また、いささか余談になってしまうが、乙羽信子演じる、主人公の初恋の女性の娘役で、扇千景現国土交通省大臣も出演。その美しさには目を見張るものがある。全編に昆布のいい匂いがたちこめ、ストーリーもキャストも存分に楽しめる名作だ。
『暖簾』(1958年)
監督/川島雄三
原作/山崎豊子
脚本/八住利雄、川島雄三
出演/森繁久弥、山田五十鈴、中村鴈治郎、乙羽信子、中村メイ子、浪花千栄子