『岸和田少年愚連隊』
洒落たバーか、あるいは大衆的な酒場で、カウンター越しに主人公と店のマスターが言葉を交わす。すると、人生経験豊かなマスターがなにか含蓄のあることを言って、主人公の気持ちを少し軽くする。小粋な洋画には、こんなシーンがよく出てく る。これが大阪の映画だと、舞台はお好み焼きの店、相手は店のオバちゃんということになる。
タコ焼き、うどんと並ぶ大阪を代表する食べ物だけに、お好み焼きの店が登場する大阪の映画は多い。『じゃりン子チエ』や『新・仁義なき戦い』のように、登場人物の一人が経営する店だったりもするが、大抵は主人公や仲間の行きつけの店で皆のたまり場だ。実際、大阪の人間なら近所に行きつけの店や、どこかに行ったら必ず寄るというお好み焼きの店はあると思う。そして、店のオジちゃんオバちゃんと親しく口をきく。昔、バーのマスターと客の関係は、殺気の交錯だなんて気障なことを書いた作家がいたが、お好み焼きの店のオバちゃんと客の関係は、息ピッタリの漫才コンビだ。そんな関係が飛びっきり生き生きと描かれていたのが、井筒和幸監督の『岸和田少年愚連隊』だった。
中場利一の自伝的小説を原作に70年代の泉州・岸和田で、ケンカに明け暮れる少年たちの姿を小気味良く活写した痛快作。その中で、主人公たちがクラブ活動をさぼって行くのがお好み焼きの店だった。主人公を演じているのが吉本のお笑いコンビ「ナインティナイン」の矢部浩之と岡村隆史、お店のオバちゃんは「かしまし娘」の正司花江師匠だ。3人のやりとりは、まさに一流の漫才のもの。ポンポン憎まれ口を叩き合うのも心許しあっていればこそで、本音で言いたいことを言う、情の通ったつきあいがそこに感じられる。こういった店のシーンは、大阪の映画ならではのものだと思う。もちろん大阪には、おいしいお好み焼きの店 がたくさんあるけれど、この映画の店のような、お好み焼きそのものの味よりも、その店の持つあったかい空気がうまい店もある。それも大阪の"食"だよね。
『岸和田少年愚連隊』(1996年)
製作/松竹・吉本興業
監督/井筒和幸
原作/中場利一
脚本/中場利一、鄭義信、我妻正義
出演/矢部浩之、岡村隆史、大河内奈々子、宮迫博之、木下ほうか、八木小織、山城新伍、小林稔侍、宮川大助