『王手』

今月はてっちりである。「エーッ、これからどんどん暑くなっていくっていうのに、なんという季節感のなさ」と、お叱りを受けるのは覚悟の上だ。事実、このホームページの編集担当からも、てっちりは冬でしょうと言われ、そうかなと僕も随分悩んだのだが、いや、それでも今の季節に書こうと決断したのだった。なぜなら、今月紹介する映画のなかで登場人物たちがてっちりを食べるのが、もっと暑い、夏の盛りの設定だからだ。そんなとんでもない映画なのだ。阪本順治監督の『王手』は。

大阪ミナミ、新世界にあるてっちりの店に呼び出された主人公の弟分の青年がぼやく。「なんで、暑い盛りにてっちりやねん」。するとサッと襖が開いて現れた主人公が答える「それは精がつくからや」。

主人公を演じているのは赤井英和。弟分は加藤雅也。赤井演じる飛田歩は、市井の賭け将棋師で喰っている"真剣師"と呼ばれるプロの賭け将棋師。一方、加藤演じる香山は、正規のプロ棋士を目指す奨励会のエリート棋士。二人は幼なじみで、持ちつ持たれつの腐れ縁。今日も、飛田が香山と彼のガールフレンドの加奈子を呼んで、どうにも詰めの甘い香山のために、二人のデートのお膳だてをしたというわけだ。

あたれば死ぬところから、ふぐちり鍋を鉄砲ちり、略しててっちり。どこで言い出したかは知らないが、ブラックユーモアの効いた、いかにも関西風のネーミン グ。もちろん冬が本場で、暑い盛りにデートで食べることはまずないと思うが、それを強引に実施するのが、豪放磊落な大阪男、"真剣師"飛田歩なのだ。

『王手』は、通天閣の"真剣師"飛田歩を主人公に、将棋の勝負に人生を賭けた男たちの姿を熱く熱く描き出した痛快作。加奈子を演じるのは仁藤優子。飛田と情を交わす"日本海のストリッパー"に広田玲央名。これに若山富三郎、金子信雄といったベテランが絡み、松本雄吉、麿赤児、國村隼、笑福亭松之助ら関西の個性 派も勢揃い。でたらめで実におもしろい、男の映画だ。

ただし、てっちりは、やはり冬がいいかもね。

『王手』(1991年)

製作/荒戸源次郎事務所
監督/阪本順治
原作/豊田利晃
脚本/阪本順治 豊田利晃
出演/赤井英和、加藤雅也、広田玲央名、仁藤優子、金子信雄、若山富三郎、松本雄吉、麿赤児、國村隼、笑福亭松之助