『二人が喋ってる』
"大阪"という言葉から連想されるものの一つに「漫才」がある。
エンタツ・アチャコに始まって、いとし・こいし、ザ・ぼんち、やすきよ、阪神巨人、ダウンタウンと、一世を風靡した名人、人気者は枚挙に暇がない。女性陣 も負けてはいない。かしまし娘、ちゃっきり娘、いくよ・くるよ、ハイヒール・・・。こんな人気者を放っておくわけもなく、かつて彼ら彼女らは多くの映画に も出演していた。ただし、なかにはエンタツ・アチャコのように、タイトルに名前の入った主演作が作られたりもしているが、そのほとんどはドラマのコメ ディ・リリーフで、また主演作でも、コメディにタレントとして起用されるのが通常で、「漫才」あるいは「漫才師」そのものを題材にした映画は少ない。そこ に生まれたのが、若手の女性漫才師を主人公に、「漫才」と「漫才師」をみつめた佳作『二人が喋ってる』だった。
主演は女性コンビ、トゥナイトのしずかとなるみ。若手漫才師として舞台に立つ彼女たちが直面する悩みや苦しみを、むしろ若い女の子としての面にポイントを 置きつつ、しかし、しっかりと漫才師である面を押さえて描いていく。漫才師になっている現在と、しずかがなるみを口説いて漫才し始める高校生の頃を、時間 軸を交錯させて展開していく手並みも鮮やかで、軽妙な、そして立派な青春映画にもなっている。監督は犬童一心。彼はこの後、沢田研二と田中裕子が夫婦漫才 師を演じた、市川準監督の『大阪物語』の脚本も書いている。
さて、この作品のどこで食べ物が出てくるかというと、始まってすぐに、大阪の街中ではよく見かける立ち喰いのうどん屋さんに、朝、舞台入りする前のトゥナ イトの二人が入ってきて、うどんを食べながら、ネタ合わせをするシーンがあるのだ。どうです、立ち喰いうどん屋さんでネタ合わせですよ。いかにも大阪的で しょ。うどん屋のおっちゃんに扮しているのも、吉本新喜劇の竜じいこと井上竜夫なので、3人の呼吸もぴったり。この映画には他にも、例えばなるみの父親に 桑原和男、しずかの母親に若井みどりが扮しているなど、吉本のメンバーが脇を固めて、若い二人を盛り立てている。それにしても、お笑いの人達の芝居はなん であんなにうまいんだろう。
大阪を舞台にした青春映画の佳作として、是非記憶してほしい一本だ。
『二人が喋ってる』(1996年)
製作/キリンビール=オフィスシナジー
配給/オンリー・ハーツ=スープレックス
監督/犬童一心
原作/豊田利晃
脚本/犬童一心 小林ひろとし
出演/新屋鳴美、宇野志津香、小松政夫、坂田利夫、松本コンチータ