『鬼火』
大阪と聞いて、思い出す食べ物は?タコ焼き、お好み焼き、うどん、とまあここらは言わば初級。ここで「串かつ」と答えると『ン、お主、なかなかできるな』という印象になる。それだけ大阪には、串かつのお店が多いし、また、おいしい。
ホテルの中や、洒落た地下街に入っている高級なお店もあるけれど、一般的な地下商店街や繁華街の路地にあるような庶民的なお店こそが主流と言えるだろう。
こういうお店は、ほとんどがカウンターだけで、中にいるオバちゃんやお兄ちゃんに注文すると、揚げたての串を運んでくれる。串かつのお店と言っても、竹串に刺してあるのは豚肉だけじゃない。キス、イカ、タコ、貝柱などの魚介類から、ししとう、アスパラなどの野菜、それに牛肉や卵、店によってはシューマイやギョーザもあったりする。それらが15センチほどの竹串に刺されてカラッと揚がっていて、カウンターに置いてある、満々とソースを湛えた容器にポチャンとつけてかじれば、サクッという歯ごたえと共に湯気と香りが立ちのぼる。うーん、たまらん。ビールに最高だ。壁には「ソースの二度づけ禁止」と書いた貼り紙。これが何故かどこの店にも貼ってある。衛生上の問題というその理由に、ホンマかいなと首をひねりつつ、これがまたなんとなく大阪らしくていいのだ。
毎度おなじみ、新世界のジャンジャン横町にある『八重勝(やえかつ)』は、行列の出来る店として有名。ここで卵を頼むと、ウズラの卵の団子ニ兄弟ではなく、鶏卵のゆで卵が一個まるまる揚げられてくる。名物のどて焼きは、串にホルモンが刺され、そのうえに特製煮込みタレがかけてある。これがうまい。
映画に登場した新世界の串かつ屋は、ジャンジャンからさらに通天閣に寄った路地にある、映画館「公楽劇場」の隣りの『越源(えちげん)』だった。映画は、 高い評価を得た望月六郎監督の『鬼火』。主演の原田芳雄が、哀川翔と並んで座り、店主から「ソースの二度づけはノーやで」と言われると、手から串をわざと 落として二度づけをする。更生しようとしてできない、アウトローの哀しい怒りを描いたハードな作品の中で、愛嬌あふれ、ほっとできる印象的なシーンだった。
串かつ屋というと面白い話がある。梅田のあるお店だというのだが、そこはカウンターだけの、それも立ったままで飲み食いする立ち飲みの店で、そこではお客さんが立て混んでくると店の人が一言「ダーク!」と言う。すると、お客さんたちがスッと体を斜めに向け、そうしてできた透き間に、また何人かが入ってくるというわけ。なんで「ダーク」なのかというと、それは男声ボーカル・グループ「ダーク・ダックス」の歌う姿勢からきているのだという。残念ながらまだ遭 遇したことがないのだが、一度「ダーク!」に加わってみたいものだ。
『鬼火』(1996年)
製作/GAGA PRODUCTIONS
監督/望月六郎
原案/山之内幸夫
脚本/森岡利行
出演/原田芳雄、片岡礼子、哀川翔、奥田瑛二