『あしたはきっと・・・』
日本全国夏真っ盛り。ともかく暑い。こんなときに思い出す食べ物といえば、冷やし中華にざるそば、そうめん。それにスイカにかき氷、ところてん。そしてアイスキャンディーといったところ。このなかで映画によく登場するのがアイス キャンディーだ。暑い大阪にはアイスキャンディーがよく似合う。田中登監督の傑作『秘色情めす市場』では、主人公を演じた芹明香が、はすっぱな女性という印象を醸すためによく食べていたし、駆け落ちしてきた宮下順子も相手の男と仲良く食べていた。かつては、映画の中で、どちらかというとちょっとお行儀がよくない印象を与えるアイテムとして使われることが多かったように思うが、今ではそんなことはない。品よく明るいお嬢さんたちが、いかにも健康的に食べている。その代表的なのが、三原光尋監督作品に登場する少女たちだろう。
高校の陸上部に所属する少女をヒロインにした初長編『栄養成分表示』から、主演の吹石一恵がクラブ活動の空手と初めての恋に揺れながら、不思議な体験をする夏を描いた最新作『あしたはきっと・・・』まで、三原映画のヒロインはよくアイスキャンディーを口にする。そして、その元気のいい食べっぷりは、彼女たちの精神の健やかさまで感じさせてくれるのだ。三原監督は大阪芸術大在学中から映画を撮り始め、大阪を舞台にした作品にこだわり、94年には大阪市主催の文化賞「咲くやこの花賞」も受賞している。室井滋が、ママさんバレーボール・チーム を率いる商店街のおばちゃんを演じた『ヒロイン!』も彼の作品だ。そういえば、あの作品でも、おばちゃんたちがアイスキャンディーを食べていた気がする。
ところで、アイスキャンディーと映画と言うと、忘れられないシーンがある。映画の中の話ではない。3年前の夏、市川準監督が大阪を舞台に『大阪物語』を撮っていたときのことだ。取材で撮影現場を訪ねた僕は、撮影隊に同行させてもらい、一 緒に移動のマイクロバスに乗り込んだ。その日の撮影には、主演の池脇千鶴、沢田研二、田中裕子の3人が顔を揃えていたが、沢田・田中は別の移動車で、マイクロバスには池脇とスタッフが乗っていた。靫公園での午前中の撮影を終え、次のロケ地の中津に移動するため車に乗り込んだそのとき、プロデューサーから差し入れのアイスキャンディーが配られたのだ。「難波551」のアイスキャンディーだった。東京からのスタッフに「これ有名なんですよ」と嬉しそうに説明する池脇が可愛いかった。初主演映画にさほど緊張もみせず、その後も彼女はキャンディー片手に、学校のことなどを屈託なくスタッフとおしゃべりしていた。今では住まいも東京に移し、映画・TV・CMで活躍中の彼女。アイスキャンディーを手にする少女を見ると思い出す、ある夏のシーンだ。
『あしたはきっと...』(2001年)
監督/三原光尋
脚本/高橋美幸
出演/吹石一恵、沢木哲、大島由香里、佐藤隆太
『大阪物語』(1999年)
監督/市川準
脚本/犬童一心
出演/池脇千鶴、南野公助、沢田研二、田中裕子