これからは「ふぐ鍋」がうまい!
落語が描くおいしい料理の数々をご馳走するこのレストラン。最初は「鍋料理」である。鍋料理の王様はなんといっても「てっちり」、つまり「ふぐ鍋」である。関東では「 あんこう鍋」の方がポピュラーである。
ふぐは「河豚」という文字を当てる。水の中の豚という解釈だ。敵に会うとプーとふくれる様子が、いかにも豚のように見えるところから、こんな文字が当てられた。
ふぐには猛毒がある。だから調理法を間違えると死に至る。芝居や映画などになって有名な『らくだ』という名作は、主人公のらくだと仇名される嫌われ者が、このふぐに当たって死んでいるところから物語が始まる。兄貴分が死体を見つけ、葬式をしてやろうと、通りかかった紙屑屋を使って、らくだの住んでいた長屋の大家や住人から、香典と酒と煮しめを集める。そして紙 屑屋と二人で通夜を始めるが、それまでおとなしかった紙屑屋が、酒が入ったとたんに、がらりと性格が豹変して、さしもの悪の兄貴分を反対にやりこめる。
『ふぐ鍋』というそのものずばりの噺もある。
ある家が知人からふぐを貰ったが、こわくて食べることをためらっている。そこへ客が来たのでふるまうが、この客も手を出さない。そこでこの家の主人は、家 の前を通りかかった物乞いに与える。様子を見ていると元気にしている。主人と客は安心して食べる。すっくり食べ終ったところに、さっきの物乞いがやってき て「なんともおまへんか。それでは私もゆっくり頂きます」。
「ふぐは食いたし命は惜しし」という川柳があるが、現代では料理法が進歩してめったなことで死ぬことはない。寒い季節は「てっちり」に限る。この冬は大阪に来られて本場の味を、じっくりと賞味して欲しい。
落語の部屋の料理の小箱
『てっちり』
河豚はあたると死ぬことから"鉄砲"という異称があります。
魚介類と豆腐、野菜などを鍋に入れて湯煮にし、ポン酢などで食すシンプルな鍋料理"ちり鍋"で、河豚をいただくことから、"てっぽうのちり鍋"。それを略して"てっちり"と呼ばれ、古くから関西で親しまれてきました。
関東で青い背の魚や赤身が好まれるのに対して、関西は白身文化といわれます。河豚の淡白な白身の美味しさは"着物を質に入れてでも食べたい"といわれるほど。そんな毎日でも食べたい河豚の飽きのこない料理法といえばやはり"てっちり"なのでしょう。
11月から3月が河豚のシーズン。今シーズンは例年に比べ価格も少し安くなっているとか。みんなでわいわい"てっちり"を楽しんでみてはいかがでしょうか。
河豚をいただくレギュラーコースといえば皮の湯引き(つきだし)→てっさ→てっちり→雑炊というのが標準的。
「てっちり」をおいしくいただくコツ
だしの昆布は湯が沸騰する直前に鍋から出すこと。このポイントを押さえることで鍋のおいしさが断然違います。
まず、あらから先に入れること。おいしい「だし」がでます。
白菜は軸のほうから先に入れ、よく煮ると、甘みがでます。 逆に葉のほうは煮過ぎないようにさっと煮ていただきましょう。
一度にたくさんの具を鍋に入れてしまわないこと。人数に合わせて、食べる都度、必要量入れるましょう。
「らくだ」(抄)
ロクに働かずにのらのらしているので「らくだ」とあだ名をつけられた男、フグに あたって死んでいるところを、尋ねてきた兄弟分の熊五郎が見つける。そこへ屑屋が 通りかかり...
| 屑 | 「エッ、らくだはんが死にはった」 |
|---|---|
| 熊 | 「見てみい、フグのあらだらけやろ、こいつに当たったんやなあ」 |
| 屑 | 「ははあ、フグに。・・・そうだっしゃろなあ。あのらくだはんだけはぶち殺しても死ぬようなお人やないとわては思てたんだ。フグにねえ、・・・考えてみると人間、案じんでもよろしいなあ、死に道のあるもんでんな」 |
| 熊 | 「そんなおかしな言い方をするない、お前、ええ。実は、わしはらくだの兄弟分で、脳天の熊五郎ちゅうもんや。らくだが死んだんを見てほったらかすわけにもいか ん、葬(とむら)いの真似ごとでもしてやりたいと思うのやが、もうすっからかんでな、取られ続けで銭が無いねん。道具を売ってと思たが、それが三文にもな らんのならどうもしゃあない。・・・(略)・・・お前ここの長屋の家主の家を知っているやろ」 |
| 屑 | 「この路地を出てな、あの左へ曲がって、あれが・・・三軒目の向こう側だしたかなあ」 |
| 熊 | 「近 いのやないかい。ちょっとそこへ行てな、ゆうべお長屋のらくだが死去つかまつりました。今晩夜伽(よとぎ)の真似事をさしてもらいますが、お忙しいのにお 越しになるにはおよびまへんと。でまあ長屋の人が集まってくる。ちょっと愛想がしたい。ところがらくだには三文の蓄えもないのでそれがでけん、で、家主 (いえぬし)と店子(たなこ)とは親子も同然の間柄やさかい、そこは遠慮なしに申し上げます。ここはあんばい言わなあかんぞ。酒の悪いのはあかんねん。酒 の良えのを三升。悪い酒はあける日頭に残って仕事にさわるさかい、良え酒を三升と、肴は芋にコンニャクに人参に揚豆腐てなところを、ちょっと砂糖をはりこ んで煮(た)いてもろて、鉢に三杯ほどじきに届けてもらいたい」 |
| 屑 | 「それ、誰が言いまんねんそれ」 |
| 熊 | 「誰がて、われが言うのやないかい」 |
| 屑 | 「ここの家主さんちゅうのはこの辺でもなあ、どっちかというと頭にこの、因業(いんごう)というような字のついてるほうで、なかなかそんなことをする人やおまへんねん」 |
| 熊 | 「何を言うとおんねん。お前はそれだけを向こうへ取り次いだらええねや。で、それだけのことがしてもらえんのなら、らくだは身よりも頼りも何にも無い人間やさ かい、ここへ死骸を運んでくる。そっちのほうで始末をつけていただきたい。死骸を運んできたついでや、死人(しびと)にかんかん踊りを踊らしてみせるさかいと、そない言うてこい」 |
| ところが家主も負けていない。 | |
| 屑 | 「そんなおどしに乗ってたまるかい。死人のかんかん踊りは見たことない。初物や。七十五日命日が延びる。早よ連れて来て踊らせて見せえ」 |
| と言ったからたまらない、嫌がる屑屋に死骸を背負わせ、本当に家主の家でかんかん踊りを踊らせてしまった。同じ手で漬物屋から棺桶代わりの桶をせしめると、家主が届けた酒と肴で、二人は酒盛りを始める。 | |
| 熊 | 「グッと一杯やっていけちゅうねん。お前は酒をきらいか」 |
| 屑 | 「いたって好きでんねん」 |
| 熊 | 「・・・そらまた皮肉な奴やなあお前。好きで飲まんのかい」 |
| 屑 | 「ウ・・・、いやもう、わて、酔うたらじきに商いがお留守になるさかい」 |
| 熊 | 「・・・ 誰が酔うほど飲ますと言うた、酔うほど飲まれてたまるかい。まるごと飲んだかて三升よりあれへんのやないかい。死人を背たろうたりして身体が汚(けが)れ てるやろさかい、一杯グーッとやって、身を潔(きよ)めて商売に出えちゅうてんのや、そやさかい一杯グッと・・・お前好きで飲まんちゅうのやな。人が親切 で言うたってんのを飲まんちゅうのやな。ようし、・・・飲むなよ。食らうな。こう言いだしたらわしも男や。頬(ほべた)引き裂いてでも流し込まなおかんの やさかい。みんごと、飲むな」 |
| 屑 | 「いただきます。いただきます。そんな怖い顔をせんかてなあ、そら、わてな、お酒は飲まんことおまへんのやが、・・・じきにわからんようになりまんのんで、軽うにお願いします、軽うに。へぇッ、へえ、・・・一杯に・・・まあこんな大きなもんになみなみと、・・・ちょうだいいたします・・・ウムー、フーッ御馳走 (ごっつお)はんでおました。へえ。ほな、これでちょっと商いに」 |
| 熊 | 「ちょっと待て、待て、待て。なかなかわれ、飲み口が鮮やかやないかい。もう一杯やっていけ、なあ。飯でも一膳飯というのはないがな。もう一杯どや」 |
| 屑 | 「また、また来てよばれますで」 |
| 熊 | 「また来てよばれる・・・。ほな何かいな、お前がまた来るまでわしはこないして待ってんのかい。もう一杯グッとやっていけちゅうのやないかい、・・・おい。・・・わいがおとなしゅう言うてる間に、飲んだほうがええぞ」 |
| とかなんとかやっているうちに主客転倒。酔った屑屋が身の上話を始めるやら、熊五郎に使い走りをさせるやら・・・。最後は二人で棺桶をかついで焼場へと出かける。 | |
| 熊 | 「お前、飲んだらあけへんやないか、早う吹かんかいな」 |
| 屑 | 「・・・こんなんはな、・・・こんなもんなんぼきれいに丸めたかて、極楽へ行ける奴やあれへん・・・こんなもん、ええかげんでええのや。こっちへグルッとまわせ。・・・(略)・・・よっとこらどっこいしょと。エー、ウン、エー。エーショッ、ヨーとしょ」 |
| 熊 | 「おい、こら頭が下になってもたで、おい」 |
| 屑 | 「上でも下でもかまうかいそんなもんお前。頭で地獄へ飛んで行きやがったらええねん。棺桶のその棒や、そう、かんぬき、かんぬき。それをこっちへ貸せ。それをこっちへ貸せ。ええ。さあかつげ、かつげ。どっこいしょっと。ヤーとこせ、ヨーイやな」 |
| 熊 | 「伊勢音頭を唄う奴があるかいな」 |
| ・・・お馴染のらくだでございます。 | |
参照:
「らくだ」の全編は、次のようなものに収録されています。
【書籍】
「上方落語」下巻 三田純一・佐竹昭弘編(筑摩書房)
「古典上方落語」下巻 六代目笑福亭松鶴編(講談社)
「米朝落語全集」第3巻 桂米朝編(創元社) など
【レコード】
「六代目松鶴・上方はなし」第六集(ビクター)
「桂米朝上方落語大全集」第二集(東芝EMI) など
「ふぐ鍋」は次のようなものに収録されています。
【レコード】
「落語大全集 思い出の名人芸 第五集 三代目林家染丸」(キング)など