秋野菜の王者『まつたけ』!
松茸「キシメジ科のキノコ。秋、アカマツの林に自生する。初めこん棒状、後、かさが開く。味もかおりもよく、秋の味覚の代表として珍重される。」
辞書が説明する「まつたけ」の項である。この形状、つまり「初めこん棒状」というくだりが、落語に描かれる「まつたけ」の運命を決定づけた。
まつたけ三部作と呼ばれる小咄がある。
まず『壁松茸』。ある家の白壁にまつたけの絵の落書きがあった。家人が消すと前より大きいまつたけが描いてある。その翌日も前より大きい。そこで家人「まつたけは触ったらだんだん大きくなる」。
次は『松茸家』。まつたけ屋が売りに来た。軸の開いていないもの、傘の開いたもの、中ぐらいのもの、虫の食った小さいもの、どれも同じ値段だと言う。客が「どうしてだ」と迫ると商人「へえ、まつたけはみな突っ込みです」
最後に『柿栗松茸』。晩秋、柿の葉が「寒い」と言いながら栗のいがの上に落ちた。栗も寒いと言うので柿の葉「何か寒い。おまえはいがを着て、皮を着て、その下に渋皮を着てるやないか」とけんかしている。横からまつたけが「おれを見てみい、この寒いのにふんどしもしてへん」
これらのオチが、皆さんにおわかりだろうか。あえて解説をしないが、よろしく判読して欲しい。
この他にも『松茸汁』という小咄がある。
たけのこをやたらに食べてはいけない。二年たてば立派な竹になって色々な役に立つ、と説明された男、まつたけは松の子だと錯覚して、吸物を食べながら「しまった、去年のまつたけ置いといたら床の間の柱に使えたのに」
『松茸の間男』という小咄もある。まつたけがテーマのものに小咄が多いのは、まつたけは最初は小さいがすぐ大きくなるからである。
落語の部屋の料理の小箱
『実りの秋!松茸と野菜いろいろ』
松茸
秋の味覚の王者といえば松茸。アカマツのほか、クロマツ、コメツガの細根に付いて養分を吸収し育つ菌根菌(きんこんきん)の一種です。
温暖湿潤な日本はキノコの宝庫で、その種類は約2000種以上。中でも、松茸は「万葉集」に詠まれるなど、古くから親しまれ、日本のキノコを代表する一つといえるでしょう。
松茸は、高タンパク、低脂肪で、ビタミンB1、B2、Dが多量に含まれています。そのほか、肝機能を高めるアミノ酸類や、免疫力を高める制ガン作用のある多 糖類、そしてガン細胞を攻撃する糖タンパク質系抗ガン成分・レクチンを含有。ヘルシーで栄養価にも優れた食品なのです。
高価で庶民にはなかなか手の届かない国産の松茸ですが、最近は外国産の比較的安価なものが出回るようになりました。スーパーなどで見かけるものはほとんどが 外国産です。韓国、中国、北朝鮮、カナダ、モロッコなどが主な輸入先ですが、やはり姿・味・香など質に関しては国産品には及びません。ご家庭で楽しまれる 場合は、外国産に地ものの松茸をほんの少し混ぜてみてはいかがでしょうか。風味が格段に良くなります。
"香りが命"の松茸には、その独特の風味を活かす様々な調理法があります。代表的なものに、和え物、お吸い物、松茸ごはん、てんぷら、松茸酒、焼き松茸、蒸 し焼き等。いずれも香りを楽しむため、煮過ぎ・焼き過ぎは禁物です。また、だし文化が発達した関西で好まれる調理法といえば、土瓶蒸し。海の鱧と山の松茸 が一緒に入った旬の"出合いもの"として、関西人に親しまれている一品です。
大阪野菜
京野菜と同じく、大阪にも地元で採れる多くの伝統野菜があります。パリパリとした歯触りがおいしい「毛馬(けま)きゅうり」、こぶりで甘みのある「勝間 (こつま)なんきん」、水分が特に多い泉州の「水なす」、煮崩れしにくい「鳥飼(とりかい)なす」、フルーツのようにみずみずしい「天王寺蕪」、富田林の 「海老芋」などが古くからある郷土野菜です。
淀川や旧大和川の支流が運ぶ土砂により野菜の生産に適した砂質土壌が形成され、多くの地野菜が大阪の各地で作られていました。しかし、都市化や作りやすいどこでもできる品種への移行から、地野菜の生産は激減し、絶滅してしまったものも少なくありません。そんな現状を憂慮して、大阪の郷土野菜を守り普及させて いく活動を行っているのが、天神坂浪速旬膳「上野」主人の上野修三さん、漬物屋『石橋商店』を営む石橋明吉さん、菊菜栽培農家の西野孝仁さんをはじめ、大阪の料理人や栽培農家の方々です。
上野さんは、浪速の伝統野菜を広め、生産農家の振興をはかる活動を行う『浪速魚菜を食べよう会』を主宰。また、絶滅かと思われた「天王寺蕪」復活の立役者である石橋さんは、小学校での種まきを指導 するなど保存と普及につとめます。そして市内で菊菜を栽培する西野さんは天王寺蕪や大阪四〇日大根など地野菜の試験栽培を実施。大阪野菜を自分たちで盛り たてていこうという気概溢れる活動のもと、多くの大阪野菜が再び市場に出回るのもそう遠くはないかもしれません。
「壁松茸」(抄)
| 甲 | ほれ見てみ、ここが伊勢屋の妾の寮やで。今度新築したっちゅう...。 |
|---|---|
| 乙 | ふーん、豪勢なもん建てよって。なんやこの壁、真っ白な白壁やないか。格好つけくさってホンマ腹立つゥ。 |
| 甲 | どや、ひとつ嫌がらせに落書きでもしたろやないか。 |
| ってんで、職人が二人、矢立を出して墨黒々と落書きをいたしました。 | |
| 女中 | あッ、ご寮さん、ちょっとお出でください。壁に、こんな、松茸の落書きが...。 |
| 妾 | ま、いやだこと。今日は旦那がお見えになるはずだから、これを見られたら、どんなにご機嫌を損ずることか。急いで左官の由さんを呼んで、上塗りをしてもらっておくれ。 |
| 上から塗り消しておきますと、翌朝...。 | |
| 甲 | おい、もう塗り直してけつかる。 |
| 乙 | ふーん、生意気な奴っちゃ。もういっぺん書いたれ。 |
| 女中 | あら、ご寮さんご寮さん、また書いていきましたよ、昨日よりもっと大きな松茸を。 |
| 妾 | ほんとにしょうがないわねえ。旦那は昨日来るといって来なかったから、今日はきっとお見えになるに違いない。早く早く、由さんを呼んでおくれ。 |
| そのまた翌朝...。 | |
| 甲 | 見てみ、また壁を塗りかえよったで。 |
| 乙 | ようし、こうなりゃこっちも男や、引っ込んでたまるかい。壁一杯に書いたれ。 |
| てんで、壁一杯に大きな松茸を書いていきます。 | |
| 女中 | まーあ、ご寮さん。今度は壁一杯に大きく書いて行きましたよ。左官の由さんを呼びましょうか。 |
| 妾 | もうやめにおし。 |
| 女中 | あら、どうしてです。 |
| 妾 | 考えてもごらん、松茸は触れば触るほど大きくなる。 |
「松茸屋」(抄)
| 松茸屋 | エー、松茸ェ。エー、松茸ェ。 |
|---|---|
| 客 | ちょっと、ちょっと、松茸屋さん、ちょっとォ。 |
| 松茸屋 | へい、どうもおおきに。どの位のにいたしましょう。 |
| 客 | そうねェ...ああこれがいいわ。随分と立派じゃないの。おいしそうねェ。これ、いくら。 |
| 松茸屋 | へい、十五銭でお願いいたします。 |
| 客 | そうねェ、値段は手頃だけど、あたし独りだからねェ。もう少し小さいのにしようかしら...、こっちのはいくら。 |
| 松茸屋 | へい、十五銭でお願いいたします。 |
| 客 | エッ、大きいのとおんなじなの。 |
| 松茸屋 | へい、おんなじでございます。 |
| 客 | おかしいじゃないの、大きいのと小さいのが、おんなじ値段なんて。 |
| 松茸屋 | へい、あのう...、松茸は全部つっこみでございます。 |
「柿栗松茸」(抄)
秋風が吹き通るお山で、柿と栗とが話しをしております。
| 柿 | おゥ、栗ィ...。 |
|---|---|
| 栗 | なんや、柿ィ...。 |
| 柿 | 寒いなあ。 |
| 栗 | たまらんなあ、こんな風。 |
| 柿 | でもお前はええよな。うらやましいわ。 |
| 栗 | 何でや。 |
| 柿 | だってそやないか。お前は、まず一番下に渋皮やろ。その上に堅い皮があって、それからイガや。三枚も着物きてるがな。それにひきかえ俺は、薄皮一枚やで。一枚脱いで俺にまわせ。 |
| 栗 | 何言うてんねん。つやつやした血色のええ顔してるくせに。俺なんか皮むいてみ、青白い肌して震えてんねんで。 |
| 柿 | 色なんか関係あらへん。イガでもええから、一枚貸してくりィ。 |
| 栗 | そうはイガんで。これを貸したらご先祖様に申し訳が立たん。 |
| 柿 | 何でこんな時にご先祖様が出て来るねん。 |
| 栗 | そやかてこの三枚の着物は、先祖が苦心してこしらえて伝えてくれたもんやさかいな。お前も薄皮一枚で寒いんなら、そりゃ先祖が間抜けなんと違うか。 |
| 柿 | なにィ、うちのご先祖様が間抜けやてェ。この甘栗野郎、目ン玉クリ抜くぞ。 |
| 栗 | やる気かこのカキゃぁ。カキむしったろか...。 |
| ってんで喧嘩になります。柿が真っ赤になって飛びついたり、栗がイガを逆立てて取っ組み合ったりしているところへ、ちょうど脇の松の根元から松茸が顔を出して... | |
| 松茸 | ちぇっ、うるさいなあ。おい、柿に栗、お前ら気は確かか。くだらんことで喧嘩して傷でも負うたら、ええ材木になられへんぞ、もう。 |
| 栗 | いや、面目ない。この柿が、根も葉もないことに言いがかりをつけよるもんで...。 |
| 柿 | そやなくて、こいつの言い草にトゲがあるさかい...。 |
| 松茸 | まあまあ、待ったけ、待ったけ。順に話しを聞こやないか。...ふんふん、柿は薄皮一枚で寒いと。栗は三枚とも先祖からの授かり物で貸せへんし、一枚でも脱いだら凍えると...。やれやれ、まったく贅沢な喧嘩してるわ。 |
| 柿・栗 | 何で贅沢やねん。 |
| 松茸 | この俺を見てみィ。この通り身は松茸でありながら、褌一枚もしてェへん。 |
「壁松茸」は、次のようなものに収録されています。
小島貞二・能見正比古「定本・艶笑小咄」(立風書房)