大阪名物は
「たこ焼」と「お好み焼」やで!
大阪の庶民の味「たこ焼」と「お好み焼」は、古典落語に登場しない。なぜなら、二つとも比較的新しく開発された食べ物であるからだ。「たこ焼」は明石焼が原点だと言われているし、「お好み焼」は洋食焼から派生したものだ。いずれも昭和期に入ってからである。
『犬の目』という古典がある。眼病になった患者の目を干しているうちに犬に食べられてしまう。そこで医者は、その犬の目を反対に人間に植えつける手術をする。というまことに奇想天外なストーリーだが、判りやすくて笑いも多いので、現代でもよく演じられる。
この噺の中の目を植えつけるシーンで、桂春蝶(人気落語家だったが若くして亡くなった)は、「こうやって、たこ焼きの要領でひっくりかえすんや」という彼だけのギャグを導入した。
創作落語(上方では桂三枝の提唱で、現代を描いた新作のことをこう呼んでいる)の分野では、よく登場するが、メーンの話題になった作品はない。
その点、ずばり『お好み焼』という創作はある。
故人となった三代目林家染語楼が、昭和三十年代の後半にこしらえて、自分で演じた噺である。
あるOLが同じ会社の男性社員にせがんでお好み焼の店につれていってもらう。そこは不思議なメニューばかりで、「結婚焼」「課長焼」「テレビ焼」「野球焼」「相撲焼」「映画焼」などがある。
物語は、それぞれのネーミングの理由を店主が説明するかたちで進行する。そして最後に客の方が「葬式焼」を作ってくれと難題を出す。
店主得たりと、魚の切り身と大量のワサビを入れて焼き上げる。食べるとワサビのために涙が出てきて、魚の骨がなかなか拾えない。そこで店主、「お客さん、これ泣きながら骨拾うてるとこが葬式そっくりでんがな」
落語の部屋の料理の小箱1
『現代版変わりお好み焼の数々』
耳においしい『お好み焼』の落語のお話のあとは、
目においしい『お好み焼』などいかがでしょう?
ご紹介致しますは、落語の中に出てくるお店同様少々変わった名前の品ばかり。ざっと40種もメニューにもつ『呑喜帆亭(ドン・キホーテ)』というお店の「創作お好み焼」にございます。
そもそもこちらのオーナーシェフ、青木昇さんはフランス料理のシェフをされていたというではありませんか。
「普通につくられる下町風のお好み焼もおいしいけれど、あまり進歩のない食べもの」と感じられたことがきっかけとなり、長年培われたノウハウを生かし、創作お好み焼をつくられるようになったのだとか。
生地をキャンパスに見たて、具を彩りよく配してつくられるさながら絵画のごときお好み焼の数々。
その中の、ほんのいくつかではございますが、どうぞ心ゆくまでご堪能くださいませ。
落語の部屋の料理の小箱2
『お好み焼とたこ焼のルーツを探る』
餅や練り物をはじめ、しっとりと水分を多く含む食品を好む傾向にある日本では、もちもちとした食感のあるうどんやお好み焼、たこ焼といった小麦粉料理が定着しました。
パンや麺類など、さまざまに姿を変え世界中で食されている小麦粉ですが、小麦の栽培には年間を通して温暖な気候が必要。したがって栽培適地である西日本のほうが、より小麦粉料理が発達しやすかったのだと考えられます。
今や大阪の庶民の味の代表格である、お好み焼とたこ焼。では、この二大メニューはいつから食されるようになったのでしょうか。誕生と大阪に根付いた背景を探ります。
【お好み焼き】
「お 好み焼」の起源は、中国の「煎餅」という小麦粉を水で溶いて焼いたものだといわれています。遣唐使によって日本に伝わり、後に千利休が小麦粉を溶いて薄く 焼き片面にみそを塗って巻いた茶席のお菓子をつくりました。これが江戸期に一般的に売られるようになった「麩の焼」の原型。
「麩の焼」とは、小麦粉を水で溶いて薄く焼き、あんを巻いたお菓子です。これが江戸後期には駄菓子屋などでより庶民的な「文字焼」となって広まりました。小麦粉を砂糖蜜で溶き、鉄板に文字を書くように流して焼いた「文字焼」は、子供たちの間で流行したおやつです。
そして、明治期になって大阪では小麦粉を溶いて焼き、桜エビや天かすなどの具を載せたものを食すようになり、アメリカから輸入された小麦粉=メリケン粉でつくることから「洋食焼」と呼ばれました。
一方、関東では鉄板で具を焼き、溶いた小麦粉を混ぜながら食べるスタイルが定着し、「文字焼」がなまって「もんじゃ焼」と呼ばれるようになるのです。ここが「お好み焼」と「もんじゃ焼」の分岐点。そして更に「洋食焼」は発展を遂げていきます。
昭和期になり、外来の調味料であるソースが一般に流通し、大阪でも「洋食焼」にソースを塗って食べるようになります。このあたりから、具が充実した専門の店 が登場するようになりました。好きな具を選ぶことができ、好き合った男女が鉄板をはさんで食すことができるから「お好み焼」。
主食(小麦粉)とおかず(具)を一緒に食べられるというのも、合理主義の大阪人に好まれた理由でしょう。
【たこ焼】
「たこ焼」の起源に関しては、諸説ふんぷん。
「お好み焼」と同じく「麩の焼」が起源で、それから「今川焼」へと発展し、その鉄板の窪みが小さくなって「たこ焼」になったという説。はたまた「お好み焼」の別派であるという説。また、半熟状の部分を食べることから「もんじゃ焼」の流れをくむという説など。
いずれにしても大阪で「たこ焼」が定着したのは昭和初期のこと。水で溶いた小麦粉にこんにゃくや豆を入れ団子状に焼いた「ラジオ焼」というものがそれ以前か らあったのですが、明石で一般的に食されていたタコ入りの「玉子焼」(いまの「明石焼」)を真似て具をタコにしたのが「たこ焼」のはじまりだとか。
「お好み焼」のようにソースをつけて食べるようになったのは戦後の昭和20年代だといわれています。国産ソース発祥の地は関東でしたが、発展させたのは関西。スパイスや野菜のうまみが凝縮されたソースが、舌のこえた大阪人に受け入れられたのでしょう。
この頃、大阪や神戸にはソース会社が相次いで設立され、もともと外来の調味料であったソースが日本人好みの味に変貌していくのです。
他の地域の食べ物を自分好みの味に変化させていく才覚にたけた大阪人。「たこ焼」はそんな大阪人の大発明品といえるのかもしれません。
「犬の目」(抄)
目が痛くなった男、知り合いから評判の目医者を紹介される。
治療は少々手荒いが、早いというので有名だというふれ込みだが...。
あっという間に、目玉をくりぬかれてしまいました。
| 医者 | 「はあ、両方とも悪いの。ちょっと見せてみ。ああーこれはひどい。」 |
|---|---|
| 患者 | 「せ、先生、大丈夫ですか。」 |
| 医者 | 「んー、まだ間に合うじゃろ。早速にとりかかろ。そこへ横になって、これを目の下にあてがいなさい。」 |
| 患者 | 「この皿をでっか。ははあー、こうやって目を洗うてもらいまんのやな。」 |
| 医者 | 「いや、そうじゃない。その皿の中へ目玉をくりぬくから。」 |
| 患者 | 「く、くりぬく。そ、そ、そんなことをして大丈夫ですか。」 |
| 医者 | 「ああ、大丈夫、大丈夫。くりぬいて取り出してな、悪いところがあったら修繕をしてまた放り込んどきゃ、それでええのや。」 |
| 患者 | 「そんな乱暴な...。」 |
| 医者 | 「乱暴も何にもないねん。こういうものは、たこ焼きと同じ要領でええのじゃ。ヨイッと。」「これを向こうへ持っていって、いつもの要領で洗浄しなさい。一号液と二号液を調合してな。調合を間違えんようにせえよ。こないだみたいに目玉が溶けてしもたらいかんから。」 |
| 患者 | 「ちょっと先生、こないだ目玉が溶けたんですかいな。」 |
| 医者 | 「いやいや、そういうことはめったにない。」 |
| 患者 | 「あたりまえやがな、ちょいちょいあったらかなわんで。」 |
| 医者 | 「ああ、心配せんでも、わしはもう千人からの目を治しとるから、任しときなさい。」 |
| 患者 | 「任すも任さんも、くりぬかれてしもたんやさかい...。しかし先生、なんですなあ、生まれた時から入っている目をくりぬかれたら、なんやこのへんが、さびしいような気がしますなあ。」 |
| 医者 | 「さびしい、そんなことはなかろう。賑やかなはずじゃがなあ。目抜きの場所とよく言うからなあ。」 とかなんとかやっているうちに、目玉の洗浄が終わります。 |
| 医者 | 「おお、きれいになった。これなら大丈夫じゃ。早速、入れてやるぞ。 これで目玉がスッと入ったらもうしまいじゃ。スッと、スッ...、何でこない入らんのや。おかしいな。」 |
| 患者 | 「先生、頼んまっせ。」 |
| 医者 | 「おかしいなあ、出たもんが入らんというはずはないが...。もっともまあ、人間の赤ちゃんでも、お母さんの腹から出たら元へは入らんから。」 |
| 患者 | 「おかしなことを言いなはんな。そやけど、何で目玉が入りまへんのや。」 |
| 医者 | 「ははあ、ちょっと液につけすぎたんで、目玉がふやけたんやなこれは。」 |
| 患者 | 「飯粒やがな。ふやけたらどないなりまんねん。」 |
| 医者 | 「いやあ、ちょっと日に干しときゃあすぐ縮むから大丈夫。おい看護婦さん、これを向こうへ持って行ってな、いつもの要領で干しときなさい。」 |
| ところが、干しておいた目玉を、隣の犬が入ってきて食べてしまいよった。 困った医者、その犬の目玉をくりぬいて間に合わせてしまいます。 | |
| 患者 | 「なんや先生、今、気になるような話が聞こえてきましたけど。」 |
| 医者 | 「いやいや、あれは別の話。君の目玉はこの通りきれいになったぞ。早速入れてやるからな。サイズが合うかどうかじゃが...、オッ、スッと入った。やっぱり縁があったんじゃな。さあこれで大丈夫。起き上がって目を開けてみなさい。」 |
| 患者 | 「ほんに早いなあ。」 |
| 医者 | 「どうじゃ、よく見えるじゃろう。」 |
| 患者 | 「何にも見えませんが。真っ暗で...。」 |
| 医者 | 「おかしいな。もう一ぺん横になってみなさい。ああ、こら見えんはずじゃ、目玉が裏返しに入っておったわい。」 |
| 患者 | 「もう先生、頼んまっせ。裏目やなんて、こないだの競馬みたいなもんやがな。早よう本目に直しとおくなはれ。」 |
| 医者 | 「いやいや、今度は大丈夫。さあ、目を開けてみなさい。」 |
| 患者 | 「いやまあ先生、よう見えますわ。」 |
| 医者 | 「それは良かった。明日一日おいて、あさって見せに来なさい。経過を調べるから。」 |
| 患者 | 「おおけ、ありがとうございました。」 |
| さて、一日おいた次の日...。 | |
| 患者 | 「先生、こないだはおおきにありがとうさんで...。」 |
| 医者 | 「ああ、こないだの犬の、ああいやいや。どうじゃな、その後、目の方は。」 |
| 患者 | 「おかげさんで、前よりもよう見えますねん。見えすぎるくらいですわ。」 |
| 医者 | 「見えすぎるちゅうと。」 |
| 患者 | 「晩でも昼とちっとも違いまへんのや。」 |
| 医者 | 「ははあ、争われんもんじゃなあ。しかし君、その方が便利がええ。」 |
| 患者 | 「そら、便利はよろしいんやけどなあ。それから、ちょいちょい変わったことがありますねん。」 |
| 医者 | 「どういうことじゃ。」 |
| 患者 | 「大体わたし寝つきが悪かったんですけど、目を治してもろてからね、横になって目さえつぶったらスッーと寝られまんねん。その代わり、何かガタッというたらスパッとこう目が覚めまんねん。」 |
| 医者 | 「うーん、しかし君、その方が用心がええ。」 |
| 患者 | 「さあ、用心はええんですが、一つだけ困ったことができたんで。」 |
| 医者 | 「何やいな。」 |
| 患者 | 「電信柱を見たら、小便がしとうなりまんねん。」 |
参照:
「お好み焼」は、次のようなものに収録されています。
【書籍】
「上方落語おもろい集」(新風出版社)など
「犬の目」は、次のようなものに収録されています。
【書籍】
「米朝落語全集・第三集」(創元社)など