商人の「風土」

大阪人スピリッツ~
「しまつ」するということ

「だんさん、こんにちは~」「あぁ、喜ぃさんか、ようきてくれはったな、ちょっとお入り......」と始まるのは、上方落語でおなじみの「ちりとてちん」の冒頭の部分。今日は、誕生日という旦那さんが、一人でお酒飲むのも心もとないということで、近所に住む気のいい男・喜六を呼んで、酒の相手をさせるというシーンです。ここで出てくるお料理に「鯛のお刺身」があります。喜六「はぁ~これが鯛のお造りですか。きれいでございますなぁ。鯛だけに上品な。切り身になっても行儀のいい......」と褒めちぎりながら、喜六はこの刺身を「うまい、うまい」と口に入れます。

鯛

鯛は、大阪の近海では、旬になるとたくさん獲れ、安く出回る魚です。美しい桜色の体は、特にめでたいとされる魚ですし、美しい白い身は甘く淡白で、何にもかえがたいご馳走として、落語や芝居、文楽に登場することからも、食卓によく上っていたことが伺えます。

さて、この鯛ですが、たとえば1匹買ってきたとしましょう。片身は、新鮮なうちにお刺身。もう肩身は、塩を軽くして焼き魚に。残った骨や頭は、潮汁・・・とどんどん料理のバリエーションをして、"骨まで"食べつくすのが、流儀です。

食べ物を感謝して最後まで無駄なく食べ尽くすことを、「しまつ」といいます。これは、商人の考え方として大事なことだと、代々伝えられてきました。

商売をしている家では、朝は前日の残りご飯でお茶漬けかおかゆにして食べる。昼は、おかずや味噌汁を添えて、炊き立てのご飯。夜は、昼の残ったご飯でお茶漬け。というのが日常でした。これだけ見ていると、食い倒れてないと思われるかも知れません。実は、普段は質素ですが、節句や祭りなど月ごとにある行事にはご馳走が作られました。

大阪人スピリッツ
~「接待」で発展した割烹料理

商人の家庭で、夜の食事が簡単に済まされる理由の一つに、旦那さんは、商談や接待で夜出かけてしまうからと言われています。では、旦那さんは、どんな料理を食べていたのでしょうか。

割烹料理

まず、だんなさんが出かけるのが、料理屋さん。ここでは、割烹料理が出されました。割烹の「割」は、刺身など生の食材を料理したもの。「烹」は、煮付けたものなど火を使った料理。つまり、新鮮な食材で、生で、焼いて、煮てと様々な料理法で料理されたものがお膳に並んだわけです。食材豊富で大事な場面での食事として、料理人たちは技術を磨き、今、私たちが食べる割烹料理を築いてきたといわれています。今では、日本料理といえば、京料理の代名詞のようですが、実は、新鮮な魚が手に入りやすかった大阪が、京より先行して料理文化の華が開いたといわれています。

接待などは、料理屋だけでなく、自宅でも開かれました。そんな時、料理屋さんに来てもらって作ってもらうか、料理屋さんが作ったものを運んでもらうという「仕出し」というスタイルも発展していきます。材料を買って、気の張るお客さんの料理をてんやわんやで作るより、少々高くてもプロに任せたほうが、お客さんも喜ぶし、余裕を持って迎えられる。それは、結局「安い」ということなんです。

おいしいもん、ええもんを食べるというのは、「無駄にお金を使わない」ということでもあるのかもしれません。

★ ちょっとブレイク~上方のお座敷入門

大阪には、そんな旦那さんたちも通ったであろう"お茶屋さん"があります。ここでは、お座敷を借り切って、お客さんとのプライベートな空間で、おいしい仕出し料理に舌鼓を打ちながら、きれいな舞妓さんや芸妓さんの踊りや三味線、地歌などを楽しむという文化もあります。

畳の上で聞く日本舞踊と邦楽の世界は、やんわりとした響きでなんとも心地よく、美しい世界です。座敷のしつらえや、季節のあしらいなど、目と耳からいただく日本人の豊かな文化も、心のご馳走になります。

時には、お客様の様子で、割烹料理がお寿司やたこ焼き、うどんになることも。ニーズに合わせた対応も、"お茶屋文化"に存在すると言います。そんなお座敷の文化を大阪・島之内にあるお茶屋「たに川」の若旦那・谷川 恵さんは、多くの人に知ってもらおうと様々な活動しています。

(谷川さんの活動については、ブログを参照