3月「雛祭(ひなまつり)」

雛祭は、旧暦3月上巳(じょうし)の節句に女児のあるお家(うち)で、雛人形をかざり、菱餅・雛菓子・桃の花などを供えて女児の幸せを祈るお祭りです。旧暦の3月3日ですから、大阪では、一ヶ月遅らせて4月3日にお祭りをしていたのですが、最近では4月3日になるとおひなさんにお供えする菱餅やお菓子などが売っておらず、伝統を守っていたお家も、今ではやむなく世間一般に合わせて3月3日にお祭りされているようです。4月3日にお祭りする方が桃の花も満開になり、季節がぴったり合うのは申すまでもありません。

水落家(船場安土町)の「行事帳」(文政6年:1823年)を見てみましょう。

「 三月
節句  朝  鱠(大こん・あさつき)、汁、小豆飯、平(蛤)
昼  汁(よめな・干大こん)、焼物(見斗)
御客者仕来なし、然レ共少々酒之肴手当致、家内祝ふ 」

鱠(膾:なます)とは、大根、人参などをきざんで、砂糖酢、胡麻酢などであえたもの。年中行事などの晴(はれ)の食事には必ず添えられました。平は、平皿 (椀)のことで、おひらといいます。幕末に喜田川守貞が記した『守貞謾稿』には「平ハ、スマシ汁」と出ていますので、朝の献立の「平(蛤)」は、はまぐりのおすましのおついです。ですから、朝ご飯には、汁(おそらく白味噌のおつい)とすまし汁がついていることになります。今も、はまぐりのお吸い物は雛祭にはつきものです。私の母がよく申しておりましたが、おひなさんのころ(4月はじめ)になるとはまぐりが大きなってしもて、おひなさんのかいらしい小さいお椀にちょうどええ大きさの貝がなかなか無うて、と。

戦前の雛祭は、学校のクラスメイトや親戚の子を呼んで、雛祭用の小さなお膳でもてなす楽しい楽しい女の子のお祭りでした。4月3日は、学校も春休み、船場の嬢さん(とうさん)たちは、おべべ(着物)着ておやつし(おめかし)して、おひなさんの前で、御馳走をいただき、「いただき」というおまん(饅頭)や雛菓子を味わい、ミニチュアの台所セットで遊び、一日中、心おきなく楽しんだのです。

水落家の江戸時代の「行事帳」には、御客さんを招いて祝う仕来りは無く、少々酒の肴を用意して家内で祝うとありますから、友だちを呼んだり、呼ばれたりしてにぎやかに祝った大正から昭和初期が、大阪の雛祭史上で一番、華やかな時期だったでしょう。大正末~昭和初期こそ、雛祭だけでなく、船場の人たちが江戸時代から受け継ぎ、育ててきた船場の生活文化が、最後の光芒を放った時期であると私は考えております。

水落静さんのお話。水落家には、古い御殿雛が二組あって、一組は実に立派な名品、もう一組は二番手やったそうですが、その二番手のおひなさんの三人官女の顔が、三人とも目のつり上がったけったいな顔で、毎年飾るたんびに、その顔がおかしいておかしいて、皆でよオ笑いました、とのこと。大阪大空襲で、享保以前の建築というお家とともに重文級のおひなさんも、二番手のおひなさんも焼失してしまったということです。今回、戦前のおひなさんの写真がほしくて、あちこちたずねてみましたが、ほとんどの方が空襲で失っておられました。しかし、幸いなことに水落静さんの従姉妹、鷹岡和子さんが大正10年の初節句に買うてもらわれたおひなさんが戦災を免れ、今も飾っておられますので写真に撮らせていただきました。

船場淡路町の羅紗商鷹岡家の三女和子さんのおひなさんは、可愛らしい木目込人形の御殿雛です。おひなさん用のお膳とお椀は、それぞれ20組揃えられました。お膳は二の膳もあったそうです。お膳のお料理は、手前右のお椀に蛤の吸い物、手前左の飯椀に小豆ご飯、向こう側右の高 坏におなま、向こう側左のお椀(お平)にお煮しめ(しいたけ・にんじん・こんにゃくなど)、そして中央のお椀(お坪)にお菜のおひたし。ただ、高坏が失わ れたため、写真ではお坪の位置が替わっています。二の膳には、焼き魚(魚の味噌漬の小さな切り身)やお豆腐の木の芽田楽などがのせられたそうです。

おひなさんの前でいただく雛菓子や御馳走

河藤の「はまぐり」

蛤(はまぐり)の貝殻の左貝、右貝をばらばらに並べ、ペアのものを選びだす遊戯、貝合せ。かつては桃の節句にかかせない遊びでした。その貝合せをイメージし、お干菓子を貝の形をした入れものに詰め合わせたものが御菓子司「河藤」の「はまぐり」です。
2月下旬から4月上旬まで限定数販売されています。商品がなくなり次第販売終了。その他にも、ひし形の箱に入ったお干菓子も期間限定で販売されています。

鶴屋八幡の「いただき」

「戴餅(いただきもち)」は、しんこ(白米を乾かし臼でひいいて粉にしたもの)を練って平らにし、ひきちぎったような形の台に、丸めたあずき餡をのせた桃の節 句に食すお菓子。その姿が阿古屋(あこや)貝の真珠のようであることから「あこや」とも呼ばれる歴史あるお菓子です。
「いただき」は、2月下旬から3月3日までの期間限定予約販売。2月中は10個以上からの予約のみで受け付けられています。デパートなどに入店している鶴屋八幡でも購入可能。

吉野寿司の「雛寿司」

横8cm、縦13cmのかわいらしい折り箱に入った、雛祭の日にだけ販売される「雛寿司」。下から、のり巻、たまご(だて巻)、あなご、まぐろ、さよりの順に並んでいるのは、いずれも吉野寿司でつくられている伝統ある押し寿司です。なんと厚さ1cmほどに切りそろえられています。
3月3日のたった1日限定の予約販売です。ご希望の方は当日までに電話で予約をしてください。