ジャンジャン横丁で約60年
「千成屋珈琲店」

千成屋

人情の町・新世界の珈琲店

通天閣のお膝元にジャンジャン横丁はあります。「まいど」と元気に挨拶を交わす人や、「おーきに」と店から出てくる人、将棋や囲碁を楽しむ人々が通う場所もあり、パチパチと賑やかな音も聞こえます。活気あるこの界隈には、大阪人ならではの温かい人情があふれています。取材の際、カメラを構えているこちらに「兄ちゃん、何撮っとんねや?」と、通りすがりの人々も気さくに話し掛けてきます。

昭和23年の創業

千成屋

そんな大阪人情いっぱいのこの街にあるのが「千成屋珈琲店」。うっすらと店内の様子がのぞけるスリガラスと、深みある木目調の外観が目を引きます。昭和23 (1948)年、恒川一郎さんによって創業されました。創業以前、一郎さんは果物屋を経営。熟し過ぎてしまった商品を捨てるのはもったいないと感じた一郎さんは、それらをジュースにして販売することを思いつきます。このフルーツジュースが大好評となったのが、珈琲店を開業するきっかけでした。豊臣秀吉を尊敬していた一郎さんは、千成瓢箪にちなんで「千成屋」に。戦後まもないそのお店は、バラック建て。生活必需品でさえ乏しかった当時、珈琲豆を進駐軍の客に仕入れてもらったこともあるそうです。人懐っこい性格だったという一郎さんが始めた珈琲店は、人々が集う憩いの空間となります。

大正ロマンスの店内

千成屋

創業者の一郎さん亡き後も、そんな心温まる空間がしっかりと築き上げられています。昭和35 (1960)年に建て替えられ、現在の大正時代のカフェのような内装に仕上げられます。一郎さんの死後、息子さんが店を守り、現在ではその奥様がマスターとなって店を切り盛りされています。創業から、仕入先も変わらず同じ業者で、味や香りもまったく変わらない珈琲。そんな珈琲に添えられているのは、大きさが異なる角砂糖と落花生。「珈琲にはナッツが合うんよ、砂糖は好みで好きな方を入れてね」とマスター。何と気の利いたことだろうと感心していると、「良かったらこれ食べて、お疲れでしょう」と出されたのは袋に入ったお菓子。大型店や高級店では味わえない人の温かさに、どこか懐かしい場所に帰ってきたような気分。取材中、そんな感慨にふけってしまったのでした。

先代の味そして心、今も引き継がれている

千成屋

ドアが開いたかと思うと「珈琲一杯持ってきて」の声。続けて「はーい」と元気な返事。「えっと、あの人は砂糖いらんかったな」と呟きながら、忙しく手を動かすマスター。ご近所の顔なじみには出前もしています。「父は人と人との触れ合いを大切にしてたからね。大切にしてたというか、根っからの大阪人やったからごく自然なことやったけど。味はもちろん、そういうもんは私も大事やと思てます」。今日も多くの人々が「いらっしゃい」の声に迎えられ、珈琲片手に一 服し「おおきに」の声とともに店を後にする。ジャンジャン横丁という人情味あふれる一角の、心温まる場所で。

住所/大阪市浪速区恵比寿東3-4-15
電話/06-6643-6523