「重亭」
池波正太郎が愛したこだわりの味
ミナミの千日前といえば、大阪を代表する繁華街です。土日・平日を問わず、買い物客や観光客で賑わっています。多くの人々が行き交う商店街の路地裏に、作家の池波正太郎氏(1923~1990)が足しげく通った「重亭」があります。ここは、1945(昭和20)年創業の老舗洋食店です。
昭和21年の創業

戦前、先代の吉原政太郎(まさたろう)さんは東京で洋食店のコックとして働いていました。しかし、関東大震災の被害に遭ったことをきっかけに大阪へ。富山出身の政太郎さんは、大阪という見知らぬ土地でゼロからのスタートをきり、「重亭」を開店します。厳しくて真面目という職人気質だった政太郎さんがつくり出す料理は、決して手を抜かずこだわりのメニューばかりでした。息子の信義(のぶよし)さんを経て、孫の政志(まさし)さんが店を継いだ現在でも、その味が守り続けられています。
創業者・政太郎さんのこだわりの味

政太郎さんが生み出したこだわりの味は、多くの客に愛されました。池波正太郎氏もその一人。昭和初期、重亭の目と鼻の先のところには歌舞伎座が建っていました。ここで、池波氏が脚本を手掛けた舞台が数多く公演されていたのです。歌舞伎座で舞台がある度来店し、時には新国劇の辰巳柳太郎氏と共に訪れることもあったとか。いつも入口からすぐ近くのテーブルに座り、そして決まって「ヒレ肉のテキ」を注文する。料理が運ばれてきたら必ず写真を撮り、食後静かに店を後にする。「本当に物静かな方でした。うちに寄られた後は、必ず蒲鉾をお買いに『さの半』へ行かれるんです。うちでお食事を済まされた後やのに不思議やなと思って、いつか訊ねたことがあるんですよ。そしたらその蒲鉾は、翌日ホテルで召し上がる朝食用なんだそうです。そんな風に、本当に食通の先生でしたね」と話すのは、当時の様子をよく知る女将さん。
今も遠方からの来客が・・・

店には池波正太郎氏の著書を片手にやって来る客も多いのだとか。店まで数メートルの距離を何度も歩いた作家。数十年前経った現在、歌舞伎座は移転され、跡地は大型商店ビルになりました。街の姿は少々変わってしまったものの、当時と同じように店へ向かう数メートルを歩いてみる人もいるのでしょう。
所在地/大阪市中央区難波3-1-30電話/06-6641-5719
http://www.jyutei.com/