「鶴屋八幡」鶏卵素麺
南蛮渡来の贅沢な味わい
「鶴屋八幡」の鶏卵素麺
甘さにも品のいい甘さと、そうでない甘さがあって、上品な甘さで口の中がいっぱいになったときは甘党にとってはまさに天国です。筋金入りの甘党である私にとって鶏卵素麺はそんな至福のひと時を与えてくれるお菓子です。
長崎に伝来した、いわゆる南蛮菓子の一種で江戸時代に大坂を代表する菓子屋だった虎屋伊織に伝わった製法が鶴屋八幡に受け継がれました。糖蜜を沸騰させた中に卵黄を流し込んだもので、作り方は素朴でも、卵(それも黄身だけ!)と砂糖といえば昔は贅沢の極み。同じ南蛮菓子でもカステラやコンペイトウほどに広まらなかったのも本当に豊かな土地でなければ根付かなかったからではないでしょうか。
その鮮やかな色、リッチな香り、口に入れた瞬間にじゅわ~と広がる蜜の甘さ。さすがの私もこればかりは、そんなに一度にたくさんは食べられませんから少しずつ、でも風味の変わらないうちに大切にいただきます。緑茶だけでなく、ブランデーを垂らした紅茶にもよく合うと思います。
和菓子といえば京菓子が有名で、大阪でもまねるところが多いようですが、鶴屋八幡のお菓子はそれとは一線を画し、本当の大阪の味を守りつづけています。お土産にすると、京都の人がいちばんその違いを分かってくれるようです。こういう店がある限りは大阪も捨てたものではないと、誇らしくなります。
卵と砂糖だけでつくる
「鶴屋八幡」の鶏卵素麺
文久3(1863)年創業の今はなき老舗「虎屋伊織」を継承し、伝統の味と技を今に伝える「鶴屋八幡」の店。季節を型どった生菓子、干菓子の数々が、いつも店先に華やかな彩りを添えています。
半月に一度は姿を変えるそれらの季節のお菓子とは別に、一年を通じてつくられるものもあります。そのひとつが「鶏卵素麺」。読んで字のごとく、卵でつくった素麺のように細くて長いお菓子です。
鶏卵素麺は、その昔、スペインやポルトガルから伝来したといわれる南蛮菓子の一種です。創業当初から伝わる製法そのままに、今も手づくりされています。材料は卵の黄身とグラニュー糖のみ。卵白とは別に分けた卵黄を裏ごしにかけ、なめらかにします。一把つくるのに、6個の卵を要します。それを湯煎にかけ、ほんの少し煮詰めます。卵の温度を27~28度まであげて、沸騰している糖蜜との混じり具合をよくするための作業なのです。
一方で、グラニュー糖を煮詰めてつくった糖蜜が銅鍋に入れて火にかけられます。沸騰して泡立ったその中に、漏斗(じょうご)に入れた卵黄の液体を一定の量を保ちながら流し入れていきます。左手でガスの火加減をしながら、ゆっくりと同じリズムで右手に持つ漏斗を回す技術。熟練の職人さんの手によってとろとろと黄色い糸が落ちていく様は、一見たやすいようにも見えますが、120度に熱された糖蜜に手を近づけなければならないため、見た目よりはるかに大変です。そして何より流し入れる動きと火の調整加減は、長年に亘って培われた技に裏打ちされるものなのです。
漏斗いっぱいに入った卵液がすべて落ちてしまうと、今度は竹べらを使って糖蜜の中から掬い出します。それをバットにのせて形を整えると、黄色も鮮やかな極細の毛糸の束のような感じに。途切れることなく束になっている鶏卵素麺は、適当な長さに切って食べます。表面の艶は自然とにじみ出たもの。口の中でシャリシャリと音を立てながら崩れていく滋味豊かな味わいは、不思議と甘さが後をひかないおいしさです。
http://www.turuyahatiman.co.jp/●住所/大阪市中央区今橋4-4-9
●電話/06-6203-7281