「庵月」蕎麦薯蕷饅頭
蕎麦粉の滋味あふれる
庵月の蕎麦薯蕷饅頭
庵月は周防町というミナミの繁華街の只中の通りに店を構えています。買物や酒場めぐりの途中にその前を通りかかり、栗蒸し羊羹の張り紙を見ると「ああ、もうそんな時季になったか」と思います。和菓子屋さんは都会に季節を伝える生きた歳時記といえるでしょう。 栗蒸し羊羹も絶品と評判ですが、今回はあえて、蕎麦薯蕷饅頭(そばじょうよまんじゅう)を選びました。
蕎麦薯蕷饅頭は一年を通じて売られている商品ですが、やはり秋の新蕎麦のころはまた格別の風味です。いわゆる上用饅頭の生地に蕎麦粉を混ぜて、粒餡を包んで蒸し上げたもので、新蕎麦の季節は新小豆の出まわるころでもあり、小豆の皮のうまみの生きた粒餡が蕎麦の香りを一層引き立てています。更には薯蕷(ヤマノイモ)も粘りを増す時であり、素朴さの中に豊かな滋味を感じさせて、まさに三位一体の絶妙な味わいが最高潮に達するのが、この時季なのです。
この饅頭に使用している蕎麦粉は、きつねうどんの元祖として大阪では知らぬ者のない松葉家のご主人で、麺類の研究家でもある宇佐美辰一さんが推奨したものとか。包み紙の蕎麦薯蕷饅頭の文字の肩に「日本一」と書き添えたところに自信のほどがうかがえます。
少し熱めに淹れた煎茶で、この饅頭を一つ、また一つと味わうころには秋も闌け、寒さがしのび寄ろうとしています。
吟味された素材の味わいを堪能
蕎麦薯蕷饅頭
大阪は賑やかな心斎橋にあって、静かな佇まいを見せる「庵月」。神戸の料亭「常磐花壇」の流れを汲むこの店は、戦後まもなく常磐車の紋とともに大阪に進出、店名を「庵月」と定め、伝統の味と技を今に伝える店です。
多種多様に亘る和菓子の中で「蕎麦薯蕷饅頭」は季節を問わず味わうことのできるお菓子のひとつです。原料は全国各地より取り寄せ、厳選されたものばかり。店主の相田さんいわく「粒餡は北海道産大納言、こし餡は備中(岡山)のものを」と、用途によっては大納言の原産地までもが異なるとのこと。また、夏場の一時期、原材料の自然薯の品質が落ちる場合は、販売しないというほどのこだわりようです。粒餡を包む「蕎麦薯蕷饅頭」では、北海道産大納言と特注の白双糖(白ザラ)を炊いた餡を使います。一方生地の部分は、大和産の自然薯(じねんじょ)、山形県尾花沢産の別注のそば粉と上用粉からなります。水も水道水ではなく、厳選された天然水を使用。使う水によって仕上がりは明らかに違うそうです。
まず、自然薯をすってとろろ状態にしたものに砂糖を加えます。溶いて攪拌させると、フワッとした少々固めのマシュマロ状の生地が完成。次に上用粉とそば粉をその生地に 練り込んでいきます。季節によって芋の固さが違うため、微妙な調節が必要で す。真っ白ではなくほんのり色づいた生地は、自然薯のアクによって自然とそういった色になるのです。
人の手で選られた粒ぞろいの大納言を使った粒餡を生地に包み込むのも、生地のコシや風味を逃がさないために、ひとつひとつ手で包まれます。大きな蒸篭(セイロ)に入れて蒸しあげること10分。できあがった饅頭を割ると、もちもちした皮の中からはぎっしり詰まった餡が、粒の姿を露わにのぞかせます。吟味された素材の滋味とともに、ひとつひとつ丹精を込めてつくられた職人さんの手の温もりまで感じられそうな、味わい深い逸品です。
住所/大阪市中央区東心斎橋2丁目8-29(心斎橋ヨーロッパ通り東入)
電話/06-6211-0221(代)
http://www.angetsu.co.jp