新感覚で味わう大阪の伝統食材たち
「Fujiya1935」
大阪のオフィス街・中央区本町附近。車の行きかう松屋町筋に面したビルの1階に見えるどっしりとした木の扉を開けると、吹き抜けの天井、整然と並ぶ客席、そして奥の総ガラス張りの厨房が目に入ります。その厨房で、オーナーシェフの藤原哲也さんが独創的な料理を生み出すレストラン・Fujiya 1935。藤原さんで4代目という洋食の老舗です。
新しく生まれ変わる和の食材、大阪の味
人参のウエハース、トリュフの膜に覆われたクルミ、フィルムに包まれた熱い丸大根と白子のソース・オリーブオイルのカプセル、八尾産若ゴボウ・ナベット風味・白いんげんソース......早春のメニューです。ちょっと不思議な名前がつけられた藤原さんの料理は、しかし素材の味を生かし、軽やかで美しく、「新しい」発想だと、大阪で、ちょっとした話題を呼んでいます。
たとえば、八尾の若ゴボウ。関西では古くからなじみ深い春の野菜です。江戸時代から大阪の中央部にある八尾界隈で作られてきた「なにわ伝統野菜」のひとつでもあります。すっと伸びた60センチほどの葉茎の先には、手のひらほどの葉、根っこに当たる根茎部分は10センチほどという独特の姿をした若ゴボウは、一見蕗のように見え、「葉ゴボウ」とも呼ばれています。葉茎の部分をさっと油で炒め、牛肉や油揚げなどと一緒に煮るなどの調理をするのが一般家庭の食べ方。和食の食材の若ゴボウが、藤原さんの手にかかると「白いインゲンのスープに浮かぶ緑のナベット(小舟)風味」になります。「さっとオリーブオイルで炒めることで鮮やかな緑色になる若ごぼうの葉茎は、春そのもの色と味を意識したんですよ」と、藤原さんは言います。ゴボウ独特の土の香りと生まれたての植物の緑の香りが、口の中で広がります。まさに春の味です。
日本人にあった新しい「食」を求めて
初代である藤原さんの曽祖父は、もともと米の相場師。明治時代、外国文化が流行し始めると、庶民でも楽しめるハイカラな洋食をと、食堂を始めました。新しい料理だった洋食を日本人にもなじみやすいように工夫し、シチューや肉料理をメニューに並べたといいます。その心意気は、4代目にしっかり受け継がれています。
藤原さんは現在33歳。料理人の祖父や父、それをサポートする祖母、母が営む店の様子を見て育ちました。小さい時から、「自分も将来料理人に」と思っていたそうです。高校を卒業後、フランス料理を学ぶために調理師専門学校を経て、大阪の有名ホテルのレストランで修行。その後、見聞を広げようとイタリア、スペインへ料理の武者修行に。そこで、藤原さんは、衝撃を受けたといいます。
「イタリアやスペインの料理に惹かれた理由は大きく2つ。まず、フランス料理が動物性の旨みの料理なら、イタリアやスペインは動物性、植物性の両方の旨みを持っている料理だと感じました。これって、日本の料理ととても近いし合うなぁと思いました。僕も日本人だからそう感じたのかなぁ。もう一つは、フランス料理にない独創的な料理が生み出されていたこと。これはかなりショッキングでした。技術的には、日本人のほうが上かも知れないと思いますが、発想の豊かさは真似できない。それまでの常識を覆すような材料の取り合わせや調理法を使って、まるでマジックのように鮮やかに、抽象画を見るように斬新な料理が、日々作り出されていたんです。しかも『軽い』。エア(空気)というんですけど、料理に空気って思いつかないでしょ。それすら料理なんですよ」
こだわり大阪の食材で新感覚の味を
今、世界的に健康ブームの影響か、料理に「軽さ」が求められているそうです。この流れをいち早く取り入れ、独創的な料理を作る藤原さんのメニューには、こだわりの食材が使われています。
「おいしい食材を使いたいなと思っていろいろ探します。生産地に行って作っている人の話を聞いたりもします。この間もジャガイモ掘りを手伝ってきました(笑)。収穫を手伝いながら、どんな栽培してるかとか、どんな工夫をしているかなど聞いていると、作られたものに『物語』を感じます。そしたら、その食材でその物語の続きを作りたくなるんです。全部無駄なく使っておいしくするのが料理人の役割。僕の料理の発想の原点のような気がします」
食材を前にして、こんな風にとか、あんな味にとかいろいろ考えながら作るそうです。作りながらも、もっとこうしたらとどんどんアイディアが加算されて仕上げていくのが藤原流です。
「おいしいもの......と探していくと、わりと大阪産の野菜や魚介に行き当たります。大阪のものにこだわっているつもりないんだけど、行き着くとやっぱり地のもの、大阪のものに行き着くことが多いです」そういう藤原さんのメニュー、もう少しご紹介します。「八尾金時人参のピューレとエアー、ビネガーソースとパルメザンチーズ添え」「焦がしたパンと吹田のくわいのソース」「碓井豌豆(うすいえんどう)とハマグリのスープと緑の目玉焼き」「子豚のローストと貝塚早生たまねぎのジュース」「菊なのスープとカンパリのグランテ」「勝間南瓜(こつまなんきん)のカラメリゼと鰻のソテー」「三島独活(みしまうど)レモンと甘いシロップ」などなど。一度食べた人が再び訪れるということも少なくないそうです。
普段、時間があるとミロの絵やガウディの建築を見ているという藤原さん。横にはいつも料理のアシストをするきれいな奥様やパティシエの妹さん、サービスをするお母さんやスタッフがいます。そうそう、サービススタッフの一人は大阪の味とワインを知るため、羽曳野のワイナリーで3年間修行したとか。Fujiya 1935からは、「大阪」を受け継ぐ、こだわりの「新しい味」が発信されています。
夜 ディナーコース 8,800円(サービス料別)
Tel/Fax:06-6941-2483
営業時間:昼11:30~13:00 夜18:00~21:00
定休日:日曜・第1月曜
http://fujiya1935.com/