「ながほり」
食という文化の発信地
生産者の志を味でひとつに
「昭和町の菊菜、茨木の三島うど、貝塚のふきのとう、八尾の金時人参、富田林のえびいも、全部大阪で取れた野菜ですわ」。テーブルの上に並べられた新鮮なその姿は、瑞々しく美しい。「結局最後は志とちがいますか」そう語る大将の中村重男さんは、そういった素晴らしい出会いを求めてほぼ毎日生産者の元へ足を運ぶといいます。「やっぱり食材を見極めるポイントは経験ですわ。せやから毎日足を運んで見てます。そうして自分で行って見てると愛情が入ってくるでしょ? そこなんですよ。そうすると中にはひとつのことを20年以上もこつこつ頑張っている生産者の人もいたりするんです。そういう人が作ったものはやっぱり気持ちが入ってるからよろしい。そうしたら今度はこれを伝えたいなぁと思うんですよ。そんな人がたくさん出てきたら、その人らをひとつにしたいなぁと思たりします。それでできたんがこの料理ですわ」。
先ほどの伝統野菜が『うまい野菜の山椒あんかけ』(ページトップの写真参照)というメニューになり、柔らかい酸味と甘い香りを引っ提げて登場。それぞれの野菜の旨味がしっかり感じられ、その存在感を口の中で確かめるようにゆっくりと味わってみると、まさに心の中で中村さんの思いが弾けていくのがわかります。「このあんかけは定番でね。季節ごとにこの中身の野菜は代わっていきますねん。春夏秋冬それぞれの季節を味わえるんですわ」。続けて戴いたのは『菊菜の白和え』。新鮮な菊菜の歯ごたえとその端正な味わいは、肴としても酒飲み泣かせ、その旨味がさらに酔いを進めることとなるのでしょう。
料理はコミュニケーション
大阪市中央区島の内。この界隈は、船場と共に、鴻池・住友といった豪商や老舗が見世や屋敷を構えた商都浪花の心臓部で、大阪商人の伝統が育まれたところでした。落語にも『百年目』『土橋万歳』『鴻池の犬』などの上方噺で大勢の奉公人が忙しく立ち働くその頃の賑やかな様子が伺えます。
そんな浪花の地に、味で人情を伝える『ながほり』は、暖簾を潜ると長い木製のカウンターがよく映る店構えが印象的。夜になるとここに様々な業種の人々が集まり、その絶妙な味と大将の最高の笑顔で団欒の時を過ごしています。「やっぱりコミュニケーションが大切やと思います。料理を出してお客さんがどう思って食べてはるんやろか?とかそういった機会が私らにとってはとても大切なんです。私らも料理にはそれぞれ背景を考えて作ってますから、そのエピソードを伝えていきたいわけです。それでお客さんも私ら料理人のコメントを聞きながら味わってみると私らの出してる料理の意味がわかってきますやろ。そうやってお互いがスキルアップしていくことが大切やと思います」。カウンターで料理を戴くというスタイルは、ここで繰り広げられる各々の会話の中で自分の味覚を磨いていくことなのかもしれません。「しかもこうやってカウンターやとそれぞれの料理の旬を戴くことができますやん。天ぷらやったら揚げたて、寿司やったら握りたて、蕎麦やったらうちたて、それが料理のピークなんです。そこをサッと戴けるわけですわ」。こだわりの食材をいちばんの旬の状態で戴く。これは料理を楽しむ上で最高の贅沢といえるのでしょう。
料理によって大切なものを伝える
「料理にお客さんの目線が感じられへんかったらあかんと思うんです。独りよがりになったらあかん。飲食というものは、全体を見たりまた部分を見たり、部分から全体を見たり常にしていかなあかんと思います。そうしたら自分のやっていることが、お客さんにとって正しい方向に向いているかどうかということが確認できますやん。そういった分析、それが大切なんです」。一つの食材にこだわりと個性を加え、たとえコストがかかってもお客さんが楽しんでもらえるように、惜しまず手間をかけ、そこに初心である伝えたいという情熱を注ぎ込んでいきます。「私らは、料理でその中にある大切なものを伝えていかなあきません。私らは所詮一人です。その一人がいろんな一人としゃべりながら感じたり習ったりした情報を共有し大きくして、今度は次の代に伝承していく。御恩送りですわ」。味にうるさいお客さんたちをうならせた味覚のマジックは、こういった大将、中村さんの誠実なる思いから育まれていったものなのでしょう。
食は文化
「それと、食は文化です」。中村さんはさらに話を続けます。「文化は位の高い人しか創られへんとか思うかもしれませんが、庶民でも創って行けるし残せるんです。例えば大根1本買うだけで、生産者は大根作れるんです。つまりそれで繋がっていけるんです。理屈やなんかやなくこれだけのことがとても大切なことなんです」。
食という文化の発信地『ながほり』。大将、中村さんの料理のカタを愛した人たちが、今日もよなよな暖簾を潜ることでしょう。そこには味の楽しみを知ったお客さんと味を伝えたい料理人が笑顔とおしゃべりでその料理の味を共有し、まるで江戸の世の浪花の賑わいが時空を越えて現れたかのような、そんなしみじみとした素敵な時間が存在しています。そんな良い気分、ちょっと味わってみたいとは思いませんか?
所在地/大阪府大阪市中央区島之内2-6-5電話/06-6212-5856
営業時間/17:00~24:00 定休日、日曜、祝日