『おでん』と「関東煮(かんとだき)」は違うのです!

おでんは御田という字を当て、田楽豆腐の田に御を付けたものだ。この字で分かるように、おでんとは豆腐にみそを付けて焼く料理のことである。

私たちが普通に呼んでいる、ちくわや半ペンをしょうゆ味で煮込むものは、関東煮と言う。つまり関東地方で調理されていたメニューが、関西の方にも波及してきたのである。その関東煮の具も、東西によって大きな差があっておもしろい。

というわけで、上方落語でおでんと言うと豆腐田楽が前提になっているので、そのことを念頭に置かないと、情景が理解出来ないことになってしまう。代表的な噺は『田楽喰い』である。

若い衆が兄貴分の家に集まってきた。近くに田楽の店が出来たので、それで一杯やることになった。普通に呑んでいてもおもしろくないので、「ん」のつく言葉を言ったら、「ん」の数だけ田楽を食べることが出来る、というルールを作った。例えば「新幹線」と言ったら三本食べられるというわけだ。皆が知恵を絞っていろいな言葉を出したが、中の一人が、火事の半鐘の音だと言って、「ジャンジャンジャン」を連発する。

そのたびに田楽を食べるので足らなくなり、店に注文するが、追いつかなくなって大さわぎになる。 田楽そのものは出てこないが、『馬の田楽』という噺がある。みそを積んだ馬を店先につないで、馬方が店の人と話をしているうちに、子供がいたずらをしたので馬が逃げてしまった。馬方はあわてて、捜しまわるが行方が知れない。ついに酔っぱらいにまで「みそをつけた馬は知らんかね」と声をかける。

それを聞いた酒呑み「わしゃ、馬の田楽は見たことないわい」

落語の部屋の料理の小箱
『生まれは関東、
育ちは大阪の「おでん(関東煮)」』

おでんと関東煮(かんとだき)

最近では、大阪でも「おでん」という名称が一般的になりましたが、昭和初期頃までは大阪で「おでん」といえば田楽(串に刺した豆腐やこんにゃくの味噌焼き)を指しました。一方、煮込み仕立ての「おでん」は「関東煮(かんとだき)」と呼ばれ親しまれてきたのです。

そもそも、「田楽(おでん)」が現在のような煮込み仕立てになったのは江戸中期のことで、串刺しだった具をみそ味で煮込むようになり、さらに幕末の頃には 醤油味に。江戸の町で屋台料理として大流行し、関西にも伝わり「関東煮(かんとだき)」として広まったのです。ちなみに、この「関東煮(かんとだき)」と いう名称、醤油味だったことから「広東煮(かんとんだき)」とよばれ、転じて「かんとだき」となったという説もあります。

文献に残るおでん

田楽をルーツとする「おでん」ですが、文献に残る最古の記録は「利休百会」(1587年)に記されており、その後「豆腐百珍」(1782年)にはさまざまな種類の田楽が紹介されています。そして、屋台料理として庶民に浸透した「おでん」は、俳句に詠われたり、芝居や歌舞伎、落語でも取り上げられるように。近年では、串刺しのおでんを 持ったキャラクターが登場するマンガも有名ですね。

おでんだね

「がん・ちく・とう・だい(がんも・竹輪・豆腐・大根)」といえば、粋人が好むおでんだね。みなさんもそれぞれに、お気に入りの具があるのではないでしょうか?コンニャク、タコ、じゃがいも、卵、牛すじ、ひろうす(がんもどき)・・・多種多様なおでんだねにあれこれ迷うのも「おでん」の魅力。最近では、ロールキャベツや海老芋、しゅうまいといった"変わりだね"も。松茸やはもといった高級食材を使った煮物懐石スタイルも人気だそうです。そして、関西で人気のおでんだねといってま ず思い浮かぶのは、鯨のサエズリとコロ。サエズリは舌の部位、コロは鯨油を搾った後の皮の乾物です。20年程前までは、家庭でつくるおでんにも欠かせない 具でしたが、捕鯨規制後はごく一部の店でしか取り扱われない珍味に。往年のファンには少し淋しい状況です。

おいしいおでんのコツ

家庭感染でおいしい「おでん」をつくるコツは、おでんだねの下煮、アク抜きなど下ごしらえを十分すること。そして、たっぷりのだしでじっくり弱火で煮込みます。ヘルシーで栄養価の高い「おでん」、寒い冬にほっこりと温まるご家庭オリジナルの味を楽しんで下さい。

田楽喰い(抄)

----若い連中が集まりますというと、昔はのんびりした時代、昼からでも一杯飲もかてな相談が出来上がります。けれども皆揃うて銭が無い。ここは一つ、町内の兄貴分に何とか頼んでみようとやって来ますと、運良く... えらいことを言い出す奴が出てきますから、田楽がどんどん無くなってまいります。けれども上には上があるもんで----

ちょうど幸い、この横町の豆腐屋が田楽屋をやりだしたんや。ちょっと食べてみたら木の芽の香りがプーンとして、なかなか良え味やね。そやさかい今日はな、ひとつその開店祝いをと思てな。まあ、田楽ばっかり並ぶけれども、ご祝儀と思て、これで飲んでんか
結構ですがな、ええ、木の芽の田楽で飲めるやなんてありがたい
どんどんどんどん、焼けるはたから持て来いちゅうてあるさかい、遠慮せんと食いや
へえ、おおきに。せやけど、これをただ食うたんでは面白ろないし...。そや、一つ、ンまわしてなことをやろか
なんや、ンまわして
田楽は味噌をつけたとか何とか言うさかいな。ゲンを祝うて運がつくように、ンまわし。ンを一つ言うたら田楽を1本取って食べるのや
難しいんやな、おい
そう言わんと、お前からやれ
いやあ、とてもよう言わん
何でもかまへんのや、ンちゅうたら1本やるねやがな
ほな1本貰う
なんでやね
よう言わんちゅうて、ンが入ったあるやろがな
よう言わんの、ンかいな、ほなまあ1本持って行け。おい、隣、お前も何か言うてみい
ほな、れんこんと、2本貰いましょ
あ、なるほど、上手いなあ。次、由さん、お前はどないや
にんじん、だいこんと、3本貰おう
おお、上手いなあ。次は誰や
エー、みかん、きんかん、こっちゃ好かんで、4本貰おか
おお、なかなか上手いな。次はどないや
坊(ぼん)さん、ぼんのくそに天花粉と、5本貰お
ははあ、なるほど。子供抱いて風呂帰りの夕涼みちゅうとこやな。隣は
てんてん天満の天神さんで、6本貰うわ
てな具合でやっておりますと、段々に酔いが回るにつれて、舌の方も良う回るようになってまいります...
隣、お前はどないや
産婦3人みんな安産、産婆さん安心と、10本貰おか
手が込んできたでえ、おい。次は
芝居でいくで
おう、芝居でも何でもかめへんがな
千松死んだか千年万年、辛苦艱難先代御殿と、11本貰おう
ほう、先代萩の御殿場か、上手いなあ。11本持って行き。さあ、だんだん大口になってきたでェ。次はお前かえ
よう聞いてや
ウム
先年神泉苑の門前の薬店、玄関番人半面半身、金看板銀看板、金看板根本万金丹、銀看板根元反魂丹、瓢箪看板灸点と、43本おくれ
それ、今お前何を言うたんや。無茶苦茶言うたらあかんで
京都に神泉苑ちゅうとこがあるやろ。あそこの門前に薬屋があるのや。その前に玄関番みたいにして半面半身の木像が置いてあんねん。ほいで金看板と銀看板があって、それぞれに根本万金丹、根元反魂丹と書いたある。別に瓢箪型の看板があって、それには灸点おろしますと書いたある
ちょっと算盤おいて、数が分からんようになったらいかんさかい
えらい奴が出てきたでェ、算盤持たして...
ジャンジャーンと、まず2つ入れてんか
よ市2つな
お次は、ジャンジャンジャンジャン、ジャーンと5つや
そらええけど、なんのこっちゃそのジャンジャンというのは
半鐘が鳴ってんのやがな、火事やがな。遠くで半鐘がジャンジャンジャン、隣の半鐘がジャンジャンジャン、消防ポンプが鐘を鳴らしてカンカンカン...
おい、ええかげんにせえよ
火事が大きいさかい、なかなか止まんぞ。ジャンジャンジャン、カンカンカン。もう、食いながら喋るさかいな。ジャンジャンジャン、カンカンカン。田楽こっちへ貸せ、ジャンジャンジャン...、おい、この田楽まだ焼けてえへん、生やないか
ああ、火事やさかい、あんまり焼けん方が良かろう
参照:
「田楽喰い」は、次のようなものに収録されています。
桂米朝上方落語大全集・第二十二集(東芝EMI)
初代春団治十八番集(テイチク)(東芝EMI)