「河藤」割氷
「割氷(わりごおり)」
透明感あふれる氷のお菓子
夏にはつい冷たい物を口にしたくなりますが、たまにはこんなお菓子の氷でお茶をたのしみ、心に打ち水をしてみませんか。
葛と同じく夏によく使われる和菓子の材料に寒天があります。寒天を煮溶かして砂糖を混ぜ、固めたものを琥珀とか錦玉といった涼しげな美しい名前で呼びます。これを乾燥させると、一見硬そうなのに口に入れると、あえなく砕ける、干し琥珀というお菓子が出来上がります。多くの場合、淡彩を施し、何かの形に整えたり、型で抜いたりしてあるようですが、「河藤」の「割氷」は無色透明。流し固めた寒天を酒盃で掻き取ってでもいるのでしょうか。その自然で潔いまでにシンプルな色形に、割氷という名の何とふさわしいことでしょう。

黙って差し出すと、たいていの人はこれを氷砂糖と間違えます。それが口に入れたとたん、ぐしゃりとつぶれてしまう。その瞬間の表情を見るのが愉快です。しかし、この見た目と実際の硬さの落差を生むには相当な技がいることだろうと思います。
寒天と砂糖の煮詰め具合、漉し加減、冷やし固めるタイミング。不規則な形をしているだけに、これを塵ひとつ付けずに乾燥し終えるまでにどれほど神経を使うことでしょう。
軽い驚きを伴った爽快な噛み心地、後に残らない甘さ。夏には涼を、冬には意外な温かみを感じさせる不思議なお菓子です。
見るからに涼の風吹く
「河藤」割氷

元々は大和の地にあって、煙草屋や綿屋を営んでおられた河藤(かわとう)のお店。河内屋藤兵衛さんの名前で七代、藤七さんで八代にわたって代々店が継がれたことから"河藤"と名の付いた、江戸時代からのお店です。現在の四天王寺に店を移し、和菓子を営むようになってからは三代目。初代川口常次郎さんにより編み出された製法を、季節ごとに姿を変える干菓子や今回ご紹介する「割氷(わりごおり)」を含む琥珀糖(こはくとう)など、繊細で可憐な和菓子に託して今に伝えます。和菓子づくりは、三代目の藤太郎さんと弟さんに代替わり。今回、お話は御年81歳になられるご兄弟の父上、ニ代目久仁夫さんにうかがいました。「割氷」という名の通り、割った氷のような姿をしたこのお菓子。一見したところ氷砂糖のようにも思えますが、実は外側に薄く皮が張っていて中身は柔らかい、氷砂糖とは似て非なる一品です。
材料は寒天と白ザラの砂糖。まず、水をはった大きな鍋二つに、細かく刻んだ大量の寒天を入れ、強火でかき混ぜながら溶かすこと10分。そこへザラメを入れてさらに溶かしていくのですが、鍋ひとつに対し、4キロ半投入された砂糖が完全に溶けたところで、中身を漉します。

漉したものをまた火にかけ、表面に浮いてきた白い泡、つまり灰汁(あく)を丁寧にすくい取ります。精製されていない黄ザラに比して量は少ないものの、ここで 丁寧に灰汁を取り除くことが透明度の高い「割氷」をつくる最大の要。もちろん、鍋に付着した灰汁も、その都度根気よく拭き取っていきます。
20分ほどそういった作業を繰り返したところで、煮詰めた二つの鍋の中身を一つのバットに流し入れます。約25センチラ40センチ、深さも25センチほどある バットには、一つの鍋につき7キロ、総量14キロもの寒天砂糖水が入ることに。これが完全に冷めるまでの間、表面に霧吹きで水をかけ、泡立ちや砂糖の結晶 化を防ぐことにも労を厭いません。冷めて大きな四角い氷状に仕上がったものは砕かれ、袋詰めにして店頭に並べられます。割るタイミングは「店に出ている量 と相談しながら」とのこと。今回は残念ながら拝見することはなりませんでした。

「表面のこのパリッとした感じは砂糖が空気に触れて糖化したもの。不純物が一切入っていないから、自ずと防腐剤の役目も果すんですわ」とニ代目。常温で二週間はおいしくいただけます。固そうに見えるこのお菓子を一口噛めば、トロッとした甘い柔らかさが広がり、そのギャップがまた何とも言えぬ味わい。この楽しさを味わってもらうために、わざわざ買いに来られる常連さんもいらっしゃるとか。なるほど、悪戯心をくすぐられる、洒落たお土産にも最適な逸品です。
所在地/大阪市天王寺区四天王寺1-9-21電話/06-6771-6906
OSAKA-INFOによる詳細